「白医」下村敦史著
善意で人を殺せば聖人ですか? 裁判所の証人席で水木多香子がそう発言するシーンから物語は始まる。彼女は主治医である神崎秀輝によって、夫が安楽死させられたことを訴えた。
神崎は、終末期を過ごす患者に緩和ケアを行うホスピス「天心病院」の医師であり、多香子の夫でボクサーの水木雅隆のほか、乳がんの肺転移で苦しんでいた川村富子、認知症でがんも患っていた曽我文江に対して、自殺幇助の罪に問われていた。
告発したのは、同病院の医師・高井一正。高井は患者思いの神崎を尊敬していたが、疑念を感じて看護師に頼んで証拠を確認し、知ってしまった以上は告発せざるを得ないと決意したのだ。
神崎は自らの罪に対して弁明することもなく刑に服したのだが、時が経つにつれて事件の意外な真相が浮かび上がってくる……。
「闇に香る嘘」で第60回江戸川乱歩賞を受賞してデビューして以来、数々の話題作を世に送り出している著者による最新作。安楽死を望む患者、その家族、命を終わらせる行為を請け負う者、それぞれの立場から安楽死が抱えるさまざまな側面に光を当てた医療ミステリーだ。
(講談社 1760円)