「母ちゃんのフラフープ」田村淳著
若い頃、看護師をしていた母ちゃんのがんが再発した。最初のがんから2年後のことで、僕ら家族はもう大丈夫じゃないか……と思った直後の再発だった。
母ちゃんは延命治療はしないと宣言。だけど人生を投げ出したわけじゃない。死を受け止めつつも、限られた日々を充実させようとしていった。念願の屋形船に乗り、写真をいっぱい撮った。
本当は手術をして、一日でも長生きしてほしい。でも家族といえど、ひとりひとりが考える領域に踏み込めないこともある。心が揺れる中、新型コロナが広がり、身動きが取れなくなっていく……。
芸人の枠にとどまらずマルチに活躍する著者による、母との別れをつづった書き下ろしノンフィクション。
明るくておしゃべりが好きだった母ちゃんの「人に迷惑だけはかけるな」という一貫した教え、反抗期の息子との大バトル、上京した息子に送り続けた宅配便、終活ノートの存在など、つづられた思い出からは母親の強さ、そして必ず訪れる「別れの日」への戸惑いと覚悟がにじみ出る。
巻末には、著者がプロデュースした「遺言動画サービス」のため取り組んだ修士論文の一部も掲載。母が協力した動画に、タイトルの謎が隠されている。
(ブックマン社 1540円)