その響きに心が揺れる音楽を楽しむ本特集

公開日: 更新日:

「もっと、わたしらしく」アリシア・キーズ&ミシェル・バーフォード著 永峯涼訳

 音楽は基本的にはたった7つの音の組み合わせなのに、その響きが人の心を揺り動かして人生を変えてしまうこともある。彼らの聴いた音楽は天上の調べだったのか、それとも悪魔の囁きだったのか……。



 女優志望だったアリシアの母、テリ・アージェロは、妊娠に気づいたとき、父親候補は1人ではなかったが、この子を産もうと決心した。アリシアの人生を変えたのは、6歳のとき、引っ越すことになった母の友人が譲ってくれた、古ぼけたアップライトピアノだった。ピアノがなくて、小さなキーボードでレッスンしていたアリシアは天にも昇る心地だった。

 14歳の頃にはガールズグループの一員として、「誰かっぽい人」でなく「自分だけの真新しいシューズで羽ばたきたい」とうたいまくっていた。そんなアリシアにR&B部門のマネジメントを担当しているジェフ・ロビンソンが声をかけた。「君は1人でやるべきだ」。メンバーと別れるのはつらかったが、アリシアはやがて摩天楼の最上階近くでピアノを弾くことになる。

 世界の歌姫の華やかな人生と苦悩をつづる。

(文響社 1925円)

「大橋慎の真空管・オーディオ」立東舎編

 佐伯多門はラジオ少年だった頃、学校の夏期実習でNHK松山中央放送局を見学し、DIATONEというブランドのモニタースピーカーのすばらしい音に出合った。こういうスピーカーをつくりたいと、1954年に三菱電機に入社、DIATONEの部署に滑り込む。同社の大船製作所には、戦争中に手榴弾で戦車を爆破するために使われた永久磁石が山のように残っていたため、これを平和利用しようとスピーカー製作を始めた。できあがったのがラジオ用の広帯域で特性の良いスピーカー。それがNHKで国産第1号のモニタースピーカーとして採用された。それ以前にも使われていたアメリカのMAGNAVOX社の製品より好評だった。

 ミュージックバードの番組「真空管ワンダーランド」のコンテンツを再構成した一冊。

(立東舎 2200円)

「響きをみがく」石合力著

 高校時代はオーボエを吹いていた豊田泰久。大学案内で九州芸術工科大学の「音響設計学科」という名を見たとき、頭の中で何かがカチッと音を立てた。大学入学後、出かけた演奏会で、ザンデルリンク指揮の演奏を聴いて衝撃を受けた。「ニュルンベルクのマイスタージンガー」はトランペットの音がまず鳴り響くのに、管楽器より弦楽器の音から聞こえてくるのだ。

 卒業後、永田音響設計に入社。サントリーホールの音響を担当する。指揮者カラヤンから「ヴィンヤード型」にするべきだというアドバイスを受け、ステージの周りを客席が段々畑状に取り囲む設計に。普通のホールのように側壁からの反響音がないため、演奏者は他の楽器の音が聞こえず苦労した。ところが、サントリーホールで演奏される音がだんだんきれいになっていく。

 美しい響きを設計する音響設計家の日々を紹介する。

(朝日新聞出版 1870円)

「小林克也 洋楽の旅」小林克也著

 小林は1941年、真珠湾攻撃の前、広島県福山市に生まれた。母はオルガンを教えていて、小林が小学校高学年の頃、レコードなどでクラシック音楽を聴かせてくれた。当時はラジオが唯一のエンターテインメントで、FENや「ボイス・オブ・アメリカ」などを聴いて英語を覚えた。高校時代はエルビス・プレスリーにはまり、「ハートブレイクホテル」が流れるとキツネにつままれたような感覚を覚えた。

 文化放送で午後1時ごろ、ロックを流す番組をやっていたので、それを聴くために学校を早引けするほど夢中になった。プレスリーばかり聴いていたため、大学時代に英語の弁論大会で2位になったとき、アメリカ人の審査員から指摘されて、自分の英語に南部なまりがあることに気づいた。

「ベストヒットUSA」のDJが、自らの洋楽体験を語る。

(玄光社 2640円)

「クラシック名曲「酷評」事典(上・下)」ニコラス・スロニムスキー編 藤村奈緒美訳

 ベートーベンの「交響曲第九番」のことを、1825年、ロンドンの「ハーモニコン」誌は、1時間5分は恐るべき長さで、楽団員の肺と筋肉、聴衆の忍耐力は過酷な試練にさらされると評し、最終楽章の合唱はこの交響曲とどういう関係があるのか解明できず、理解可能な構想が欠如しているとしている。

 また、ショパンの曲は、1841年の「ミュージカル・ワールド」誌で、すべてがやかましい誇張と耐えがたいほどの不協和音を混ぜ合わせたものと断じられる。そしてショパンの怠慢は、作家のジョルジュ・サンドの魅惑にとらわれているからであり、魅力的なサンドがなぜショパンのようなつまらぬ芸術家を相手にしているのかと批判された。

 総勢43人の作曲家と作品の酷評集。

 音楽界の革新者に向けられた「なじみなきものに対する拒否反応」のアンソロジー。

(ヤマハ 各2090円)

【連載】ザッツエンターテインメント

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動