最新おもしろサイエンス読み物特集
「WHAT IS LIFE? 生命とは何か」ポール・ナース著 竹内薫訳
大人になれば世間のほとんどを見知ったような気持ちになりがちだが、世界はまだまだ未知の領域に満ちている。そこで今回は、あなたの知らない領域の奥深くに分け入って、真実の目を見開いてくれるサイエンス読み物5冊をご紹介!
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幼い頃に抱いた「生きているとは、いったいどういうことなのか」という疑問を追求すべく研究者となり、ノーベル医学・生理学賞を受賞した著者による、生命の本質に迫る解説本。命あるものは①生命の基本単位としての細胞を持ち②成長し機能し繁殖するための遺伝子の命令を受け継ぎ③自然淘汰による進化を行い④代謝と呼ばれる膨大な化学反応を細胞内で同時進行させ⑤自分と子孫を永続させるために自分が住む世界と体の内側の世界の両方の状態について絶えず情報を集めて利用する――という5つの段階で考えられるという。
ヒトも含めて地球上の多様な生物の生命の根底には、共通したシステムが作用している。人類は、その意味を理解できる唯一の生命体として特別な責任を負っていると指摘している。
(ダイヤモンド社 1870円)
「タネはどうなる!?」山田正彦著
2020年12月に成立した種苗法の改定案。登録品種の自家採種を一律禁止するという仰天の内容にもかかわらず、衆参合わせて15時間足らずの審議で強行採決された。19年にはゲノム編集種子の有機認証についての検討会も開かれ、遺伝子組み換えのイネ「WAKY45」などが用意されており、気づかぬうちに日本のタネの世界が大きく変わろうとしている。
本書は、タネを巡る種子法廃止や種苗法改定の意味を検証しながら、ゲノム編集作物の問題点を取り上げた警告の書だ。
たとえば遺伝子組み換え作物にはカナマイシン等の抗生物質を使ったマーカー遺伝子が必要なのだが、こうした食物を取ることで抗生物質耐性感染症などの新たな問題が生じる可能性が憂慮される。より多くの人が現状を知り議論する必要性があると訴えている。
(サイゾー 1540円)
「絶滅魚クニマスの発見」中坊徹次著
かつて秋田県の田沢湖にのみ生息していた幻の魚「クニマス」。ヒメマスと似た魚だが、一生湖の中で過ごし、他のサケ属の魚と異なり深い湖底で産卵する特徴を持っている。しかし、ダム建設のため強酸性の玉川から田沢湖に水を引き込んだために水質が変化し、クニマスは姿を消した。
ところが70年を経た2010年、著者のもとに「黒いヒメマス」なるものが持ち込まれた。産卵を表すヒレの破損があるその魚が、山梨県・西湖の水深30~40メートルに仕掛けたワカサギ漁用の網にかかっていたことを知り、著者は形態学的分析とDNA分析を実施。確かにクニマスだということが確認され、大ニュースとなった。
本書は、絶滅と発見の歴史と保全計画を解説しつつ、クニマスから学ぶべき生物学的研究の意義や未来への課題を問いかけている。
(新潮社 1870円)
「皮膚の秘密」ヤエル・アドラー著 岡本朋子訳
私たちの体を覆っている皮膚は、通信アンテナの役割を果たし、外界の情報を体に感覚として伝えている。本書では、皮膚を地下1階にあたる表皮、地下2階にあたる真皮、地下3階にあたる皮下組織で構成された地下3階建ての駐車場にたとえつつ、その詳細を解説。
たとえばニキビと関係の深い皮脂を分泌する皮脂腺は、地下2階部分にあたる真皮に位置している。このため、脂性肌改善やらオイリー肌用と称する化粧品を、地下1階の表皮に塗ってもその成分は全く届かず、逆に表皮が洗い流されて不健康な状態になっていることも少なくない。
皮脂腺の活動は男性ホルモンと深く関わっているので、去勢した男性にはニキビができないこと、皮脂の過剰分泌は牛乳や小麦粉や砂糖などを多く含む食品と関係が深いことなども紹介している。
(ソシム 2200円)
「液体 Liquid」マーク・ミーオドヴニク著 松井信彦訳
体内の血液から液体金属まで、地球にはさまざまな液体が存在する。本書は、液体がどんな性質を持ち、人はそれをどう活用してきたのかをユーモアたっぷりに語る物語だ。
著者が飛行機で旅する間に遭遇するさまざまな液体をヒントに、液体の不思議な性質をわかりやすく解説している。
液体とは無秩序に動き回る気体と、全く動くことのない個体との中間状態にある物質だ。液体表面の分子と内部の分子では分子にかかる力に差があるために表面張力が生まれる。この力を利用してアメンボは水面を歩き、植物は根から水を吸い上げ、マイクロファイバーのクロスは水分を吸収する。
すらすら字が書けるボールペン、スマホに使われる液晶などのお馴染みの技術から、DNAを使った液体コンピューターまで、液体の可能性の大きさに興奮させられる。
(インターシフト 2420円)