冷戦期台湾の「白色テロ」の歴史を学園ホラーに
「返校 言葉が消えた日」
台湾といえば「親日的」が大方の日本人の先入見。しかし敗戦後間もない時期の日台関係は波乱含みで、渋谷警察と愚連隊がつるんで在日台湾人集団と争った「渋谷事件」など、国内でもけんのんな事例は珍しくなかった。
それが忘れられたのは両国がそれぞれ冷戦構造に組み込まれ、日本はアメリカに従属。台湾は大陸を逃れた国民党に独裁支配されたため、記憶が塗り替えられたからだ。
この冷戦期台湾の「白色テロ」の歴史を、なんと学園ホラーとして物語化したのが来週末封切り予定の「返校 言葉が消えた日」である
時は1962年。日本が「所得倍増計画」で高度成長を満喫したのと同時期だが、台湾では国民党政府による言論統制が敷かれ、発禁書など手にすれば投獄はおろか死罪になる懸念すらあった。物語はこの時代相を背景に、軍の配属将校が監視する地方のエリート高校で怪死事件が続発し、美貌の女生徒と彼女を慕う下級生男子が必死に逃げまどう筋立てが展開される。
実はこの物語、台湾ローカルのサバイバルゲームが原作。そう思って見ると確かに移動ショットやズーム効果にRPGと同じ感触がある。年長の観客にはノスタルジックな文芸色も感じさせながら、「歴史の暗部」をエンタメ商品に仕立ててゆく。おかげで国際映画祭の評判も上々、報道媒体も本紙を含め、ニュースの中で続々と取り上げている。
台湾を巡る歴史のイメージや自意識については丸川哲史著「台湾ナショナリズム」(講談社)があるが品切れ。代わりに発売中の月刊誌「ユリイカ」8月号の「特集・台湾映画の現在」に丸川が本作を語った論文も掲載されている。また陳紹英著「外来政権圧制下の生と死」(秀英書房 1980円)は戦中を日本で過ごし、戦後は母国の白色テロで強制収容された台湾人男性の手記だ。 <生井英考>