ダンサーらが繰り広げる不思議な時空
「アメリカン・ユートピア」
天才肌だが神経質な男が、年をとって円くなる。よくある話だが、円くなっても豊かになるとは限らない。その稀有な例外を見せてくれるのが先月末から公開中の「アメリカン・ユートピア」だ。
実はこの映画、ブロードウェーの舞台の再録。といってもいわゆるライブ映像ではなく、元トーキング・ヘッズのデイヴィッド・バーンを中心に、世界各地からやってきたミュージシャンやダンサーが歌い、踊り、語る中をカメラが縦横に動き、リサイタルのようなパフォーマンスのような音楽劇のような不思議な時空を繰り広げる。
監督はスパイク・リー。客席の観衆と演者の目を鮮やかに入れ替えつつ、ぴたりと楽曲に同期するカット割りや構図がうまい。題名はバーンの最新アルバムと同じだが、舞台では昔のヒット曲も多数織り込まれる一方、舞台上ではミュージシャンら全員が動き回り、パーカッションもシンバルやスネアやタブラボンゴに分かれて自由自在。いまや70歳近いバーンの髪は真っ白だが、舞台上の11人はおそろいの明るいグレーのスーツ姿が実に瀟洒で、性別も国籍も年齢も超えたおとぎの国の鼓笛隊みたいなのだ。
バーンもリーも若いころはむき出しの神経や鬱勃たる怒りが服を着て突っ立ってるみたいだった。それがこんなふうに円熟する。その姿に触れるのはうれしいものだ。
昔、ニューヨークでCBGBに最後に出演したころのトーキング・ヘッズのライブを見たことがある。CBGBはパンクの殿堂といわれたライブハウスだが、ヘッズはむしろ「カウンター(逆向きの)パンク」だったんじゃないかと個人的に思う。
マクニール&マッケイン著「プリーズ・キル・ミー アメリカン・パンク・ヒストリー無修正証言集」(Pヴァイン 4180円)を読めばきっとわかってくれるだろう。 <生井英考>