「さよならテレビ」阿武野勝彦著/平凡社新書
東海テレビのドキュメンタリーにはハッとさせられてきた。たとえば「死刑弁護人」であり、「ヤクザと憲法」である。ドキッとさせられたと言ってもいい。そのプロデューサー欄には、いつも、阿武野の名前があった。
ドキュメンタリーが全国ネットにならないので映画にして劇場公開の道も開いたが、それも「テレビが窮屈になって力を失っていくのを何とかしたい」からだった。
悪魔とレッテルを貼られた「死刑弁護人」の安田好弘を撮ったり、「反社会的勢力」と呼ばれるヤクザの親分の日常を追うのはなぜなのか?
指定暴力団「二代目東組」の2次団体「二代目清勇会」会長の川口和秀は、「暴力団と呼ばれるのは、どういう気持ちですか」という阿武野の問いに、「誰が、自分で自分のことを暴力団と言いますか。言うてるのは、警察ですよ」と返した。
私は「ヤクザと憲法」を見て、川口と対談した。それは「週刊金曜日」の2017年2月17日号に載っている。
「私は長いこと裁判をしてますから、裁判所に対しては失望しかありません。服役したのは22年11カ月、約23年ですよ」
こう語る川口は宮城刑務所にいた時、看守から暴行を受けた受刑者に相談されて、「監獄人権センターに手紙を出せ」とアドバイスした。そして、弁護士の海渡雄一らが動き、訴訟にも勝ったという。
神戸拘置所では、出廷の時にベルトをさせてくれと言ったら、アカンと来た。「理由は言われへん」なので、「それなら、裁判でぇへん、出廷拒否や」と答えたら、警備隊が6人ほど部屋に来て、連れ出そうとする。「コラー、これ(心臓)とめてから出せ」と川口が叫んだら、その迫力に負けて手をかけられなかったとか。
「さよならテレビ」で阿武野は「たとえば、指定暴力団の組員は銀行口座を作れない。幼稚園から子どもの入園を断られても暴力団員は何も言えない。自動車は売ってもらえないし、保険にも入れない」と書いている。それで川口は東海テレビの取材に応じた。まさに「ヤクザにも憲法を」である。私との対談で最後に川口はこう言った。
「ヤクザと共生できるような社会が一番ええですよ。いろんな人間がいてこその世界やと思います」
★★★(選者・佐高信)