「安いニッポン」中藤玲著/日経プレミアシリーズ
まったく救いのない本である。今の日本のどうしようもない状況が事細かにデータとともに書かれている。本書の内容をざっくりと表現するとこうなる。
「コスパと安さばかり重視した結果日本の物価は上がらず給料もまったく上がらず、企業はケチな日本人対応に苦慮。一方、成長を続ける諸外国は物価も給料も上がり、安い国である日本で爆買いをし、旅行を楽しむ」
しかも、コロナにビビりまくって欧米よりも被害が少なかったにもかかわらず自粛を続け、2021年も低成長と出産減は続くだろう。もはや日本は老いた衰退国であり、先行きは暗い。最後まで読んでどこかで救いがあるのか、と期待するも結局、何一つとして明るい材料がないのである。
1990年代中盤、いしだ壱成が出演していたタイ航空のCMでは「タイは、若いうちに行け」のコピーがついていた。今の時代の日本の若者に安易に言えるものではない。LCCでもないタイ航空の飛行機代は高いし、タイ国内もこの頃ほど物価が安くない。タイの通貨・バーツも上がっている。一方、2019年まで訪日タイ人は年々増加していた。
本書では100円ショップ「ダイソー」の世界各国の価格も書かれてあるが、こうなっている。
日本…100円/中国…160円/台湾…180円/タイ…210円/シンガポール…160円/オーストラリア…220円/アメリカ…160円/ブラジル…150円。
もはや日本人を客にするのは企業にとってはキツいことなのだ。本書は日経新聞や日経電子版に掲載した「安いニッポン」などの記事をベースにしているが、掲載時にネットで話題になった部分を紹介する。内容量を減らして価格は変えない「ステルス値上げ」に関し、東大の渡辺努教授がどんな気持ちで商品を小型化したのかを聞いた時の話だ。
〈僕たち技術開発者は、通常業務が終わったあとに残業までして小さなおにぎりの作り方を試行錯誤している〉
これを聞いた渡辺氏は「企業や労働者が、誰も報われないことをやっている、悲しいニッポンだ」と思ったという。
客のワガママな要望に応えるのが企業の使命だと考える日本企業は値上げをすることにビビっている。それが結果的に今の凋落につながっている。世界各国はコロナ以前の生活に戻り始めている。一方我が国はまだビビり続け自粛を続けている。本書を読むとその理由がよく分かる。とにかくビビリ民族なのである。
★★★(選者・中川淳一郎)