「歌集 滑走路」萩原慎一郎著/角川文庫
「サンデー毎日」の6月27日号で、小沢一郎が地元の岩手の県議会選挙のことを語っている。
「達増拓也知事は選挙では共産も含め、与党の県議を全員応援した。自民党はカッカしていたが、与党県議は皆喜んだ。この岩手に学ぶべきこともあるのではないか」
この発言に最も学んでほしいのは連合会長の神津里季生である。野党共闘で立憲が共産と手を結ぶことを彼は邪魔してばかりいる。
大体、政党でもない労働組合のボスがなぜ口をはさむのか。それに右往左往する枝野幸男もだらしないが、私は神津に、そんな暇があったら、“本業”でしっかり成果を出せ、と言いたい。利益剰余金という名の企業の内部留保は2019年に475兆円を記録し、8年連続過去最大となっている。これは組合、つまり神津が何の闘いもしていないということではないか。また、非正規雇用というのも4割に達しているが、それを放置している神津の責任はとてつもなく大きい。
神津や枝野は、2017年に32歳で急逝した若き歌人、萩原慎一郎の悲鳴のような歌に耳を傾けるべきだろう。
○非正規という受け入れがたき現状を受け入れながら生きているのだ
○非正規の友よ、負けるな ぼくはただ書類の整理ばかりしている
非正規とは文字通り、「非正規」である。それを正規にするために労働組合はあるのではないのか。非正規をなくすためには、立憲と共産が手を組み、むしろ、連合がそれを推進することを萩原ら若者は願っているだろう。
○今日という日を懸命に生きてゆく蟻であっても僕であっても
○牛丼屋頑張っているきみがいてきみの頑張り時給以上だ
○箱詰めの社会の底で潰された蜜柑のごとき若者がいる
これらの歌を読んで、神津の胸は痛まないのか。
○どっかーんと爆発をしたそのあとじゃ遅いのだけど再稼働する
原発再稼働をなお願う電力総連や電機連合の迷妄をたしなめるのが神津の役割だろう。しかし、その逆に脱原発を求める運動の足を引っ張ってばかりいる。
○屋上で珈琲を飲む かろうじておれにも職がある現在は
この歌集は昨年映画化もされた。
★★★(選者・佐高信)