「能から紐解く日本史」大倉源次郎著
謡曲「国栖(くず)」は浄御原(きよみはら)の帝(大海人皇子)が都から吉野の山中に逃れてくる話である。帝が川沿いの民家で食事を乞うと、民家の老夫婦は国栖魚を焼いて振る舞った。帝が渡した魚の片身を翁が川に放すと、魚は生き返って泳いでいった。これは吉野の人びとが大海人皇子(後の天武天皇)を守ったことを表しており、天智天皇7年から天武天皇元年の4年間に起きた歴史上の事件を描いている。天武天皇が山岳信仰の人たちのネットワークに助けられ、後に政権を取ったという史実を謡曲として伝えてきたのだ。能の舞台で小鼓方を務める著者が謡曲に隠された日本の歴史を読み解く。
(扶桑社 1980円)