ページをめくる手が止まらない!骨太警察小説特集

公開日: 更新日:

「琉球警察」伊東潤著

 警察小説はドラマ化や映画化、シリーズ化の作品も多く、種類もバラエティーに富んでいることからどれを読んでいいか迷ってしまう。そこで今回は、捜査1課はもちろん、監察や交番、戦後の沖縄を舞台にした作品など、骨太の警察小説5冊を紹介しよう。



 時は昭和27年、徳之島出身の東貞吉は琉球警察の警察官に採用された。正義の味方になるという夢を持っていたわけではない。しかし“米軍に奪われたものを取り戻したい”という思いは強く抱いていた。

 しかし、新規採用者たちに告げられたのは、アメリカの要請による「戦果アギヤー」の取り締まり強化。戦果アギヤーは少年窃盗集団で、米軍の倉庫から物資の強奪を繰り返し、最近では米軍兵士用の医薬品が不足する事態に陥っていた。とはいえ、米軍と日本人との間には大きな生活格差があり、生きるために盗まざるを得ないという現実もあった。矛盾を抱えながらも手柄を立て、公安担当となる貞吉。しかし、沖縄主義者である人民党の瀬長亀次郎と接するうちに、ますます強い葛藤に苦しめられるようになる。

 自分はアメリカの犬か、沖縄の人間か。混沌とした戦後の沖縄を舞台に描かれる、骨太の歴史警察小説だ。

(角川春樹事務所 2090円)

「巨鳥の影」長岡弘樹著

 さまざまな犯罪と真相を追う警察という構図に加えて、そこに生き物が絡んで物語が展開する異色の短編ミステリー集。

 先輩刑事の桐村と強盗事件の聞き込みを行っていた田所。その途中で立ち寄ったガソリンスタンドには、犯人と目されているエルナンドというスペイン人と同郷だという青年が働いていた。

 近くの公園でサッカーをしているという話を聞き出し、エルナンドの元へ向かおうとしたその時、田所は聞きなれない鳥の鳴き声を耳にする。さらにエルナンドの取り調べを行っていると、再びあの鳥の鳴き声が聞こえてくる。(「巨鳥の影」)

 楽しみはペットの蟻の飼育と、隣室のキャバ嬢が留守中に部屋に忍び込むこと。そんな内気な大学生の有末が、大きな地震をきっかけにキャバ嬢と話せるようになったものの、殺人事件に巻き込まれていく「水無月の蟻」など、8編が収録されている。

(徳間書店 1815円)

「赤の呪縛」堂場瞬一著

 銀座の高級クラブで放火事件が発生。開店直前の店にやってきた20代後半の女が、ガソリンをかぶり火をつけたという凄惨な事件だ。オーナーである野村真沙美が巻き込まれ、犯人と共に死亡した。

 警視庁捜査1課の滝上亮司は捜査を進めていくが、さらにもうひとつの事件が発生する。岸本文夫という70代の男性が、自宅にいるところを銃撃されたのだ。

 宅配ドライバーを装った犯人は、ドアを開けた岸本に正面から発砲。さらに倒れたところにとどめの一発。暴力団絡みでない限り、日本ではまずあり得ない手口だ。

 実はこの岸本、政治家である滝上の父の秘書を長年務めていた人物。さらに銀座で死亡したクラブのオーナーは、父の愛人だったことが分かる。かつて滝上は父を憎み、故郷を捨てていた。父は事件に関与しているのか。

 デビュー20周年を迎えた著者が、“父と子の相克”をテーマに挑んだ長編警察小説である。

(文藝春秋 2035円)

「匣(はこ)の人」松嶋智左著

 本書がスポットを当てるのは、交番のお巡りさん。浦貴衣子はバツイチのベテラン巡査部長で、かつては刑事課に所属していたが、あることがきっかけで異動し、栗谷交番に勤務している。

 そんな貴衣子の相棒として配属されたのが、新米巡査の澤田里志。自分の歓迎会にも欠席というイマドキの若者らしい里志だが、それ以上に人に対しての興味のなさに貴衣子は戸惑う。

 ある時、町で殺人事件が発生。殺されたのはアジア圏の若い外国人だった。貴衣子は新人の里志を気遣うが、どうも様子がおかしい。赴任したての警官が初めて遺体に遭遇した場合、外では話せない分、交番では冗舌になるものだ。ところが里志は話を振っても上の空。夕食もほとんど食べずに、ぼんやりと交番の外を眺めている始末だった。やがて、里志が怪しい行動を見せるようになり……。

 実は著者、日本初の女性白バイ隊員として活躍した元警察官。リアルな描写に引き込まれる。

(光文社 1980円)

「残響」伊兼源太郎著

 WOWOWでドラマ化もされた、警視庁監察シリーズの最新作。

 主人公の佐良が所属する人事1課は、警視庁職員4万人の不正を取り締まる監察業務という大きな任務を背負っている。そして佐良は今、一部警官が秘密裏につくっている組織「互助会」を追っていた。法律で罰することのできない悪党に“懲らしめ”と称し私刑を加えている互助会。彼らはねずみ講よろしく、正義感に燃える警官の互助会への勧誘まで行っていた。

 大規模な振り込め詐欺グループの構成員が相次いで殺された事件でも、互助会の関与が疑われた。この連続殺人事件では、悪党が殺されていく構図がSNSで称賛され、世論も私刑賛美であふれるという事態にまでなった。そして捜査が難航するうち、監察トップの警務部長が殺されるという事件が起きてしまう。

 昨今のネット事情などを見ていると、現実世界で起きても不思議はない、空恐ろしさを感じてしまう。

(実業之日本社 1870円)

【連載】ザッツエンターテインメント

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    相撲協会の逆鱗に触れた白鵬のメディア工作…イジメ黙認と隠蔽、変わらぬ傲慢ぶりの波紋と今後

  2. 2

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  3. 3

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 4

    《2025年に日本を出ます》…團十郎&占い師「突然ですが占ってもいいですか?」で"意味深トーク"の後味の悪さ

  5. 5

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  1. 6

    中居正広の女性トラブルで元女優・若林志穂さん怒り再燃!大物ミュージシャン「N」に向けられる《私は一歩も引きません》宣言

  2. 7

    結局《何をやってもキムタク》が功を奏した? 中居正広の騒動で最後に笑いそうな木村拓哉と工藤静香

  3. 8

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  4. 9

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  5. 10

    高校サッカーV前橋育英からJ入りゼロのなぜ? 英プレミアの三笘薫が優良モデルケース