「霊魂の足」角田喜久雄著
警視庁捜査1課の課長・加賀美敬介を主人公に、敗戦直後の東京を舞台にして描いた名作短編ミステリー集の復刻。
ある人物を出迎えるため上野駅に来た加賀美が地下食堂で時間を潰していると、相前後して入ってきた2人の男が背中合わせに座った。加賀美は、国民服の男が自分の持っていた古トランクを帽子をかぶった男のトランクと差し替えたことに気づく。帽子の男は気づかずに店を出ていく。加賀美が国民服の男を尾行すると、男は郵便局に入り、トランクから出した包みをどこかに送ろうと手続きをする。さりげなくその宛名を見ると、何と警視庁の加賀美宛てだった。(「怪奇を抱く壁」)
70年以上も前の文章に、現代にはない味わいを感じる傑作選集。
(東京創元社 1100円)