「深紅の断片」麻見和史著
テレビの医療ドラマで、災害など多数の傷病者が同時に発生した際に、治療優先順位を決定するトリアージの場面が登場する。その際、トリアージタッグという、黒(死亡)、赤(要緊急治療)、黄(待機可能)、緑(軽症)の4色のタッグで選別する。目の前の傷病者にどの色のタッグを付けるかは経験が必要で判断を誤れば命に関わる。本書はこのトリアージが事件のカギとなる医療ミステリー。
【あらすじ】舞川市中央消防署警防課救急第二係隊長の真田の元に出場要請が入った。機械で声を変えた匿名の通報で、食品工場の敷地内に女の子が閉じ込められており、早く助けないと死ぬという。妙な通報と感じた真田は、警察にも連絡するように伝え、現場へ急行する。
現場には鎖で封じられた冷蔵庫があり、中に誰かいる様子だ。急ぎレスキュー隊の出動を要請し、無事少女を救出するが、庫内には大量の血が流れていた。
ところが少女には目立った傷はない。ただコートの背中に黒、赤、黄の3色に塗り分けられたシールが貼ってある。だが、少女は固く口を閉ざし名前も犯人も分からない。数日後、同様の通報があり、今度は鎖を巻かれた焼却炉内に腹部を刺された中年男性が閉じ込められており、コートには黒と赤のシールが貼られていた。真田は、これはトリアージタッグに違いないと確信する。
真田は少ない手がかりを頼りに調査を進めていく。すると、今回の事件は5年前に起きた自動車事故におけるトリアージが関係していることが判明する──。
【読みどころ】救急の現場とそれを受け入れる病院の様子が詳細に描かれ、救急医療のさまざまな問題が浮き彫りにされている。巧みな伏線が張られ二転三転するストーリー展開、ミステリーとしても一級品だ。 <石>
(講談社 858円)