「バナナの木殺し」呉佩珍、白水紀子、山口守編 池上貞子訳
安全地帯の茂みに隠れていた品琴(ピンチン)は、僕の車にぶつかってきた。彼女の兄だと偽って救急車に乗り込んだ僕に、品琴は自分のことを話しだした。品琴の一家は台湾南部の山地に広大なバナナ畑を持っていた。祖父が亡くなった後、母は買い物に行き、ある宗教団体に出合った。彼らは深い悲しみの中にいる品琴の一家を深い思いやりで包み、品琴一家にともに懺悔(ざんげ)の歌を歌うように頼んだ。品琴はこの宗教の教義に対して理解も同意もできなかった。品琴は3カ月前にようやく宿願を果たしたと僕に言った。廃棄船の上で、バナナ収穫用の刀で男を殺した、と。それは懺悔神雲会教の会長だった。
虚実がないまぜになった幻想的な表題作のほか2編を収載した台湾の小説集。
(作品社 2640円)