「異聞浪人記」滝口康彦著
井伊直孝の屋敷を年老いた浪人が訪ねてきた。改易された福島正則の元家臣・津雲半四郎と名乗る男は、人生に行き詰まり、武士らしく切腹して果てるために死に場所として当家の玄関先を貸してほしいと言いだす。
応対した老職の斎藤勘解由は、半年前に訪ねてきた同じ福島家の千々岩求女の名を出すが半四郎の顔色は変わらない。江戸では、食い詰めた浪人が諸大名の屋敷に押しかけ、同じことを言って金をゆする行為が横行していたのだ。
勘解由は、求女が意に反して死に追い込まれた経緯を語るが、半四郎は本当に切腹するから介錯人を井伊家家臣の沢瀉に頼みたいと言いだす。
映画「切腹」や「一命」の原作となったこの表題作をはじめ、末端の武士たちの生きざまを描いた傑作時代小説集。
(河出書房新社 870円+税)