童話から写真集まで── 人間の最高の相棒「犬」特集
「稔と仔犬 青いお城」 遠藤周作著
キリスト教の信仰を題材に扱った「海と毒薬」をはじめ、歴史小説や戯曲など多岐にわたる作品を執筆してきた著者。今回初の単行本化となったのは、「カトリック青年労働者連盟」の新聞に連載されていた幻の童話だ。
主人公の稔は父を戦争で亡くし、母と祖母の3人で暮らしている。そんな稔が出合ったのが、悲しそうな目をした仔犬。一人と1匹は大の仲良しになるが、母からは家に連れてくることを固く禁じられてしまう。
困り果てた稔だが、神父が手を差し伸べ、教会で飼ってくれることに。「ロビン・フッド」と名付けられた仔犬と稔は、幸せな日々を過ごす。
ところが、ロビンを妬んだクラスの村上君に「犬をよこせ」と脅されてしまう。そして、空気銃で教会のマリア像を撃て、言うことを聞かないとロビンを撃つと迫られるのだった。
少女漫画雑誌「りぼん」に掲載されていた「青いお城」も同時収録。
(河出書房新社 1870円)
「ハウ」 斉藤ひろし著
結婚を間近に控えた赤西民夫は、ファミレスの片隅で不意打ちの悲劇に見舞われていた。婚約者に「最初からあなたのこと好きってわけじゃなかったの」と別れ話を突き付けられたのだ。
呆然自失となりながら、40年ローンで購入したばかりの2階建て4LDKに帰る民夫。上司の鍋島に事の顛末を告げると大声で笑い飛ばされたが、そのデリカシーのなさは、かえって救いだと思った。
ところがある週末、強引に誘われた鍋島の自宅を訪ねてみると、そこにはたくさんの犬がいた。鍋島は妻と共に保護犬活動をしており、どうしても引き取り手が見つからない「ハウ」と名付けられた1匹を民夫に押し付けてきたのだ。広すぎる家で暮らし始める独身男とハウ。しかしあるとき、ハウが突然行方不明に……。
本作は、人と犬の関係を描くプロジェクトとして企画された小説。今年夏には、犬童一心監督で映画化も決まっている。
(朝日新聞出版 748円)
「星守る犬 完全版」 村上たかし著
「泣ける」と話題になった大ヒット漫画が、単行本未収録の番外編をまとめた完全版として発刊された。
「ぼく」の最初の記憶は箱の中で鳴いていたこと。そして女の子に抱き上げられたこと。やがて「ぼく」は女の子の家でお母さんにご飯をもらい、お父さんと散歩して幸せに暮らした。しかし、いつしか家にはお父さんだけになった--。
不況でリストラされ持病を抱えた中年男性が、妻と娘に捨てられ、やがて愛犬と共に気ままな車の旅に出る。しかし所持金も尽き、彼は身元の痕跡を消して愛犬に見守られながら永眠する。そして、男性が旅で出会った少年や老女が、犬と共に人生を取り戻していく様子も描かれていく。
映画化もされた本作だが、著者によると「哀れな孤独死」などマイナスの反響もあったという。しかし、ひたむきに生きる犬と、しがらみを捨てて純粋で幸せな時間を過ごす人々の姿に、生きることの本質を問いかけられる。
(双葉社 1430円)
「柴犬コウちゃんの女子道入門」 井口省三郎著
インスタフォロワー数9万人という大人気“柴犬女子”コウちゃんの写真集。茶色い毛に雪が積もり、まるで揚げパンのようになったコウちゃん。湯船に漬かるコウちゃん。アイドル顔負けの笑顔を見せるコウちゃんなど、260画像が掲載されている。
コウちゃんにまつわるエッセーも読みごたえ十分。もともと柴犬好きだったが共働き夫婦でもある飼い主は、犬を飼うことは難しいと諦めていたという。しかしあるとき、ホームセンターで「ちょっと抱っこしてみませんか」とささやかれ、妻が1匹の柴犬を抱っこしてしまう。
すると、その子犬がまったく離れようとしない。しかもその日は、夫の給料日。かくしてコウちゃんは家族の一員となり、その日の夜、妻は老犬となったコウちゃんが天に召される日の夢を見て号泣したというから気が早い。
柴犬好きはもちろん、コウちゃんの“あざと可愛さ”に悶絶すること請け合いだ。
(文藝春秋 1727円)
「マンガ 看取り犬文福の奇跡」 若山三千彦原作、北村永吾漫画
動物と暮らせる横須賀市の特別養護老人ホーム「さくらの里山科」。ここにいる犬の中でもとりわけ不思議な力を持っているのが看取りを行う文福だ。
通常は自分で部屋の引き戸を開け、入居者と自由に遊んでいる文福。ところがあるとき、うなだれて部屋の前に座り込んでいた。不思議に思った職員が部屋を訪ねてみると、入居者の脈がわずかに落ちている。そして数日後、その入居者は息を引き取ったのだという。
なぜ文福は死を感じるのか。それは、文福自身が死と対峙したことがあるためではないかと本書。文福は保健所から引き取られた保護犬で、あと1日でガスによる殺処分になるところだったという。そんな恐ろしい経験をした文福は、何度も看取りを行ってきた。認知症で暴力的になったお年寄りにも寄り添い、何人もの心を穏やかに変えているそうだ。その奇跡と愛に、胸が熱くなる。
(学研プラス 1390円)