「掃除婦のための手引き書」ルシア・ベルリン著 岸本佐知子訳
毎日バスに揺られて他人の家に通う掃除婦の「わたし」は、ジェセルの担当を辞めたいが、彼女が気の毒で辞められない。彼女には私しか話す相手がいないのだ。
掃除婦は何でも知っている。彼女の夫は弁護士で愛人もいるが、たぶん彼女は知らないか、知っていても忘れている。彼女は自分の病気まで忘れる。掃除婦が物を盗むのも本当だ。ただし、雇い主が想像するようなものは盗まない。わたしがいつも盗むのは睡眠薬だけだ。
掃除婦の原則は友だちの家では働かないこと。遅かれ早かれ知りすぎたせいで憎まれるからだ。しかし私は友人のリンダの家にも仕事で行く。なぜなら彼女の隣の家はわたしがかつてターと暮らしていた家だからだ。
作家自らが体験した人生の紆余曲折をもとに書かれた傑作短編集。
(講談社 990円)