「宗歩の角行(そうほのかくぎょう)」谷津矢車著
貧乏長屋に住む浪人崩れの天野の義理の息子、留次郎は将棋が強いと評判だった。噂を聞いて一局指しにきた将棋家の大橋宗桂に勝った留次郎は角行が好きだと言った。鵺(ぬえ)のごとくどこまでも行ける気がすると。
留次郎が6歳のとき、対局した相手は、定跡を正確に覚えていながら時に定跡外れの手を打つ留次郎に震え上がった。大橋分家の伊藤宗印は留次郎との対局で、角は飛車に劣ると考えられているが、彼のつくり出す混沌極まりない盤面の上なら角は飛車に負けぬ光彩を放つと気づく。
江戸末期に活躍し、近代将棋の定跡の基礎を築いた天才棋士、天野宗歩の孤独と絶望の人生を描く伝記小説。
(光文社 1980円)