「にべ屋往来記」村木嵐著
身延山道の万沢宿にある旅籠にべ屋に妙な客が滞在していた。供侍3人を連れた尾張藩の間島太郎兵衛という人物だが、女中に先代のお内儀、蕗のことを尋ねた。
15日目に間島に呼ばれて主の智吉が部屋に行くと、窓辺に吊るしていた風鐸(ふうたく)を指して「この風鐸、どこで手に入れられた?」と尋ねる。それは智吉の母、蕗が三河の廃寺から持ってきたものだった。間島は徳川家の付家老のご落胤(らくいん)を探していると明かし、付家老の側女は鞆之助という下男を連れていたという。その名に智吉はいやな予感がし、とっさに嘘をつく。
旅籠を舞台にした時代小説7編。
(文藝春秋 2090円)