藤井青銅(作家・脚本家)
10月×日 先日開催した「あの素晴しい歌をもう一度」コンサートのアフタートークに、ステージ台本を書いた作家として出席。コンサートのアフタートークは珍しい。
10月×日 藤井一至著「大地の五億年~せめぎあう土と生き物たち」(山と溪谷社 990円)を読む。まず、地球の歴史46億年の中で41億年は土がなかったという記述に驚く。え! じゃあ「土」って何だ?
土壌とは、岩石から生まれた砂や粘土に腐った動植物遺体が混ざったものだという。あれは遺体だったのか!
大昔の樹木が堆積して石炭ができたというのは知っている。樹木はその後も成長しては倒れているのに、なぜあらたな石炭ができないのか? なんとキノコが誕生して樹木を分解するようになったからだという。
ありふれた「土」なのに知らないことだらけだ。
11月×日 柄にもなく句会に参加。作家、役者、噺家などが下手な俳句を詠む。私の俳号は、青銅が錆びて「緑青」。
11月×日 橋本倫史著「ドライブイン探訪」(筑摩書房 990円)を読む。今どんどん廃業しているドライブインを訪れ、お店の方に話を聞く出色のルポ。
かつて北海道のドライブインではバイクのツーリング客たちが独自のネットワークで集まった。九州・阿蘇のドライブインはハイウェイ時代と共に大繁盛した…当時を知る者として懐かしい。そして今ファミレスとハンバーガーチェーンとコンビニの登場、そして経営者の高齢化によってどんどん廃業している。ドライブインの興亡は昭和・平成の庶民史なのだ。
30代の著者だからこそ気づいた視点だろう。失われつつあるものを記録に留めようという姿勢が素晴らしい。
11月×日 私の新刊「国会話法の正体」のゲラが届く。「記憶にございません」や「遺憾に思う」などの政治家・官僚の言葉にはみんなうんざりしている。なのになぜ今も使われるのか? その構造を分析し、言葉のホンネを詮索した本。政治本として読まれるだろうが、私としては言葉本なのだ。