アートに触れる本特集

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「戦争とデザイン」松田行正著

 あなたの「今年の抱負」は決まっただろうか。スポーツに挑戦する、資格を取ってみるなどさまざまあろうが、「アート漬けになる」というのはいかがだろう。今回は、新たな芸術分野として注目される「クィア・アート」から、アートを活用したものの見方の強化方法など、アートの世界へ誘う5冊を紹介しよう。

 近代以前からロシアのウクライナ侵攻まで、国家が戦争を推進するために利用されたデザインについて分析する本書。

 戦争のシンボルマークというと、ナチスのカギ十字が思い浮かぶ。アジア圏の仏教寺院でも用いられている「卍」を左右反転したものだが、その最大のデザイン的功績は、カギ十字を45度傾けたことにあるという。傾けずにそのまま描いた場合、単なる地紋のようでしかないが、傾けたことで回転を得て、躍動感と“めまい”を感じさせている。

 ナチ党大会の会場で軍隊がロボットのように行進し、ヒトラーの演説と「ハイル・ヒトラー!」の掛け声の連呼。その壁には無数のカギ十字が掲げられている。この中で人々は「めまい」による思考停止に陥り、戦争に突き進んでいったのだ。

 ロシアがウクライナ侵略を正当化するシンボルに「Z」を据えた意味なども分析。デザインに罪はないが、その威力に恐怖を感じる。 (左右社 2750円)

「13歳からのアート思考」末永幸歩著、佐宗邦威解説

 本書が示す「アート思考」とは、芸術的能力を指すのではなく、自身の視点でものごとを捉え、解釈する力のことだ。

 ページをめくると最初に飛び込んでくるのが、「次の絵を鑑賞してください」の言葉と、クロード・モネの「睡蓮」の絵画。その下には絵の解説が記されている。おそらく、多くの大人が絵よりも下の解説を読んでいる時間が長いはずだが、これは鑑賞ではなく、作品情報と実物を照らし合わせる「確認作業」に過ぎない。

 幼い子どもに睡蓮の絵を見せると、「カエルがいる」という感想を述べることがあるという。実際にはカエルなど描かれていないのだが、「今は水に潜っている」そうだ。これこそが自分なりのものの見方や考え方だと本書はいう。

 なぜその絵が“リアル”に見えるかを考えたり、自分の落書きから共通点を見つけるなど、アート思考を磨くエクササイズも満載。頭の固くなった大人にこそ役立ちそうだ。 (ダイヤモンド社 1980円)

「みるみるわかる『西洋絵画の見方』」壺屋めり著

 伝統的なイタリア絵画を中心に、西洋絵画の規則や枠組みについて解説。

 画家が自由に描き、ギャラリーで絵を見た人が購入する。これは19世紀以降に発達した比較的新しいシステムで、それ以前は多くの絵画がオーダーメードだった。単に鑑賞するためのものではなく、何らかのメッセージを伝えるメディアとして“使用される”ものだったのだ。

 例えば、イタリアのシエナ政庁舎に描かれている、玉座の聖母とそれを取り囲む聖人たち。14世紀初頭のシモーネ・マルティーニによる作品だが、政治の実践と深いかかわりを持つ絵画である。

 聖母マリアはシエナの守護聖人であり、執政官たちが私利私欲に走らないよう戒めるために描かれたものなのだという。その証拠に、絵画の下部には聖母のセリフとして「自らの利益のためにわたしを軽視し都市を欺く者に用心せよ」と記されている。

 絵画展に足を運ぶ際は必携だ。 (小学館 2200円)

「いい絵だな」伊野孝行、南伸坊著

 イラストレーターの著者らによる、縦横無尽の絵画談議。

 ふたりがもし「日本の美術ベスト10」を挙げるとすると、必ず入るのが耳鳥斎という江戸時代の浮世絵師だという。日本美術史ではまったく重要視されていない人物だが、とぼけたタッチが印象的な“ヘタうまキング”だ。

 デッサンがうまい、写実的な形が取れていることが普通で言う「うまい絵」ではあるが、いわゆるリアリズムとは目の前にある“当たり前”に近づくこと。むしろ、そこからそれているものにこそ引かれると語る。しかし、絵は描き続けると誰でもうまくなってしまう。そうすると、面白みがなくなる場合もある。放浪の画家として知られる山下清なども、少年時代に在籍していた八幡学園で貼り絵を始めた頃の作品がみずみずしくて魅力だという。

 ヘタうまイラストの帝王と呼ばれる湯村輝彦氏も「ヘタをキープしている」という。絵は奥が深い。 (集英社インターナショナル 2420円)

「クィア・アートの世界」海野弘解説・監修

 性的少数者を表し、かつては差別的な言葉であった「クィア」は、現在ひとつの文化的コンセプトとして用いられている。本書では「クィア・アート」という切り口で、多彩なジャンルの芸術作品を解説している。

 16世紀にラファエロが描いた「アテナイの学堂」は、アカデミーで熱心に学ぶ多くの男たちが描かれている。その中で美少年がひとり、見ている我々に視線を向けている。いったいなぜなのか。実はこの場所、年上の男性によって導かれる若者たちのホモエロチックな愛のユートピアでもあった。19世紀にデルヴィルが描いた同テーマの絵画では、若者たちが全裸で長髪であり、エロチシズムをあからさまに示しているのが印象的だ。エロスの解放が起きた第1次大戦後や、エイズによりゲイへの攻撃が悪化した1980年代など、時代の波の中で生まれたさまざまなクィア・アートが堪能できる。 (パイ インターナショナル 4620円)

【連載】ザッツエンターテインメント

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