「日本中世の民衆世界」三枝暁子著
日本の中世は、武士の時代として認識されているが、この時代、武力を行使したのは武士に限らず、僧侶や神職者、商工業者、農民、被差別民のいずれもが紛争解決の手段として暴力を行使したという。その背景には朝廷と幕府の併存という国家権力の分裂・多元性があり、それゆえに社会集団が自律的だったからだ。
本書は、京都の「西京神人(にしのきょうじにん)」と呼ばれる共同体に焦点を当て、中世の民衆の姿に迫る歴史テキスト。
神人とは中世の商工業者の身分呼称で、特に神社と結びついた商工業者を指す。西京神人は、麹業を営む職人としての要素を持ちながら、北野天満宮領の領民として年貢・公事を負担する平民でもあった。
彼らの存在形態とその動向を追い、中世民衆像と中世社会像を浮かび上がらせる。
(岩波書店 968円)