「おやじはニーチェ」髙橋秀実著
著者の87歳の父は身の回りのことをすべて母にやってもらって、もともと自立していなかった。 母が急死したので著者が同居することになったが、認知症の父は母が死んだことも認識していない。介護認定の調査に使われる「長谷川式簡易知能評価スケール」で質問してみた。
夕方、散歩に出かけて「俺たちが今いるところはどこ?」と聞いた。「ここってどこだ?」と逆に質問されて、著者は「『ここ』とは多くの『ここ』の単純な複合なのだ」というヘーゲルの哲学的な命題に気づかされた。訳がわからなかった父の言葉をメモするようになったら、わかるようになってきた。
認知症の父との禅問答のようなやりとりを記録したノンフィクション。
(新潮社 1815円)