元気と意欲の源 最新「脳」本特集

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「脳は意外とタフである」池谷裕二著

 年齢を重ねても「冴えてるなぁ」と思わせる人もいれば、どんなに若くても「こいつ大丈夫か」と疑いたくなる言動で周囲を振り回す人もいる。いつまでも前者でいたいと思うなら、「脳」についてあらかじめ知っておくのも悪くなさそうだ。そこで今回は脳について深掘りできる新書5冊をご紹介!

  ◇  ◇  ◇

「脳は意外とタフである」池谷裕二著

海馬」「脳はなにかと言い訳する」など、脳分野で多くの著書を持つ著者による脳エッセー本。遺伝子やAIなど幅広い視点から、脳についてのさまざまな知見を軽妙に紹介していく。

 たとえば、「記憶力は年齢とともに低下する」という社会通念について、著者は反対の立場を表明。その論拠として、米タフツ大学で行われた実験で「記憶実験では通常高齢者の方が成績が悪い」と説明した上で行われたテストで高齢者のテスト結果が悪くなるのに対し、「ただの心理試験」という説明の上で行われた同じテストでは年齢による差が出なかったことを挙げている。つまり「記憶力は年齢とともに低下する」という思い込みが、本来の能力を妨げているのではないかというのだ。

 ほかにも「ヒトは因果応報を好む」「自分は社会的地位が高いと思うと、非道徳的な態度になる」など、111のトピックについて解説する。

(扶桑社 1056円)

「不老脳」和田秀樹著

「不老脳」和田秀樹著

 同じ話を繰り返す、すぐにキレるなどの兆候が見られたら、脳の中でも特に前頭葉の衰えが疑われるらしい。理性や情動のコントロールをつかさどる前頭葉は40代から萎縮が始まるため、加齢とともにそれらの働きが停滞したり、暴走したりするからだ。

 本書は、前頭葉機能不全時の症状を挙げつつ、その鍛え方を提示。フレッシュな脳を保つヒントを教えてくれる。

 前頭葉を鍛える対策は、①白か黒かの「二分割思考をやめる」②ルーティンを避け「実験する」③脳の血流を増やすために「運動する」④孤立を避けて「人とつながる」⑤インプットだけでなく「アウトプットをこころがける」の5つ。

 高齢化が進む日本は前頭葉機能不全社会になりかねないため、今こそ一人一人が前頭葉を鍛える必要があると訴えている。

(新潮社 836円)

「モチベーション脳」大黒達也著

「モチベーション脳」大黒達也著

 やる気が湧かなくて困った経験はないだろうか。そんな人にお薦めなのが本書。モチベーションの正体を脳のメカニズムという視点から解説している。

 モチベに影響を与えるのは、脳の統計学習という機能。脳は経験から「次に何が起こるか」を無意識下で統計的に予測学習する。予測精度が上がると「わかった」と脳が喜び、この喜びが多いほどモチベが上がるが、同じことが繰り返されれば今度は脳が退屈してモチベが下がってくる。行動が習慣化されてモチベが維持されるケースもあるのだが、カギとなるのは不確実性を減らして「わかった」に収束していく思考と、知的好奇心を持って不確実なものをワクワク探索する拡散思考の2つの使い分けらしい。

 やる気を出すのが難しいからこそ最新のモチベーション理論を活用したい。

(NHK出版 968円)



「まちがえる脳」櫻井芳雄著

「まちがえる脳」櫻井芳雄著

「脳を再現するコンピューターをつくりたい」と考えても、実際それをつくるのは不可能だ。なぜなら、脳はコンピューターと違ってよく間違えるからだ。

 本書は、脳が間違えるという事実に焦点を当てて、ヒューマンエラーの事例、脳の信号伝達の実情、脳に対して抱く迷信など、研究結果をもとに解説している。

 びっくりさせられるのが、脳内ニューロンの頼りない働きぶり。信号を発生して伝達する基本素子のニューロンの性能は、極めて非効率らしい。電気製品の部品なら返品必至のシロモノで、ニューロン間の信号伝達は30回に1度程度しか成功しない。

 人がつくった組織は最上位の中枢からの指令が一方的に流れることで制御されているが、脳は特定の指令所をもたない究極の民主主義方式をとっているという指摘も興味深い。

(岩波書店 1034円)

「スマホ依存が脳を傷つける」川島隆太著

「スマホ依存が脳を傷つける」川島隆太著

 生活の一部になっているスマホだが、その便利さに頼れば頼るほど、脳はダメージを受けるらしい。仙台の公立小・中学生を対象に行った調査によると、スマホの使用頻度の高い子どもは大脳の3分の1の領域と大脳白質の多くの領域で発達が止まっていることがわかったという。

 脳にとっての諸悪の根源は、自分の意思とは関係なく情報の割り込みが随時入り、集中時間が極端に短くなる「スイッチング」という状態。スイッチングを繰り返すことで注意力は散漫になり、集中力はさらに低下し、体調悪化にもつながっていく。睡眠時間6時間の子どもは、50代で認知症の発症確率が高まると推察されるというから事態は深刻だ。

 スマホ依存に危機感を抱いた著者が、その危険性に警鐘を鳴らし、スマホ依存から離脱する方法を説く。 (宝島社 990円)

【連載】ザッツエンターテインメント

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