「カデギ」イ・ジョンチョル著 印イェニ訳 首藤若菜解説
「カデギ」イ・ジョンチョル著 印イェニ訳 首藤若菜解説
「カデギ」とは、トラックで運ばれてくる積み荷を降ろす仕事。時給は悪くないが、なにしろきつい。脱落者が続出するなかで、それでもこの仕事を続ける人の多くはワケありだ。本書の作者もそのひとり。漫画家を目指してソウルに上京し、6年間もこの「底辺労働」に従事した。過酷な日常をつづった韓国のグラフィックノベル、そのリアリティーがたまらない。まさかねぇ、カデギがもっともうんざりするのがキムチ漬けのシーズンだなんて知らなかったよ。
海外発のドキュメンタリー映画を見たような、知らない世界をのぞかせてもらった高揚感を抱いて本を閉じた。でも読後にしみじみ残るのは、よく知っている人たちだった。それは世界のどこにでもいる「目立たないけどすごい人」だ。ヘトヘトな状況でも機嫌よく対応する人、具合が悪い仲間の仕事をそっと肩代わりする人、頑張った後輩に缶コーヒーをごちそうする人、部下を大事にしない上司にきちんと物申す人……。どんな組織にもこうした「目立たないけどすごい人」がいて、持ち場をそっと照らしている。
わたしは転職を繰り返し、フリーランスになってからもふら~りふらりと生きてきた人生だ。アルバイト経験もそこそこある。これまでお世話になった職場を思い出すと、ひっそりと誠実に持ち場を照らしていた人が何人も浮かぶ。若かったわたしには「のんきな先輩だな」としか見えていなかった人もいる(「目立たないけどすごい人」を見つけるには、こちら側の眼力も問われるのだ)。
問題は解決しないし社会は冷酷だけど、彼らはこの世を少しだけマシにしてくれる。尊い。
(ころから 2750円)