著者のコラム一覧
金井真紀文筆家・イラストレーター

テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て2015年から文筆家・イラストレーター。著書に「世界はフムフムで満ちている」「パリのすてきなおじさん」「日本に住んでる世界のひと」など。

「カデギ」イ・ジョンチョル著 印イェニ訳 首藤若菜解説

公開日: 更新日:

「カデギ」イ・ジョンチョル著 印イェニ訳 首藤若菜解説

「カデギ」とは、トラックで運ばれてくる積み荷を降ろす仕事。時給は悪くないが、なにしろきつい。脱落者が続出するなかで、それでもこの仕事を続ける人の多くはワケありだ。本書の作者もそのひとり。漫画家を目指してソウルに上京し、6年間もこの「底辺労働」に従事した。過酷な日常をつづった韓国のグラフィックノベル、そのリアリティーがたまらない。まさかねぇ、カデギがもっともうんざりするのがキムチ漬けのシーズンだなんて知らなかったよ。

 海外発のドキュメンタリー映画を見たような、知らない世界をのぞかせてもらった高揚感を抱いて本を閉じた。でも読後にしみじみ残るのは、よく知っている人たちだった。それは世界のどこにでもいる「目立たないけどすごい人」だ。ヘトヘトな状況でも機嫌よく対応する人、具合が悪い仲間の仕事をそっと肩代わりする人、頑張った後輩に缶コーヒーをごちそうする人、部下を大事にしない上司にきちんと物申す人……。どんな組織にもこうした「目立たないけどすごい人」がいて、持ち場をそっと照らしている。

 わたしは転職を繰り返し、フリーランスになってからもふら~りふらりと生きてきた人生だ。アルバイト経験もそこそこある。これまでお世話になった職場を思い出すと、ひっそりと誠実に持ち場を照らしていた人が何人も浮かぶ。若かったわたしには「のんきな先輩だな」としか見えていなかった人もいる(「目立たないけどすごい人」を見つけるには、こちら側の眼力も問われるのだ)。

 問題は解決しないし社会は冷酷だけど、彼らはこの世を少しだけマシにしてくれる。尊い。

(ころから 2750円)

【連載】金井真紀の本でフムフム…世界旅

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動