「夢幻の動物事典」ドゥニーズ・クロール=テルツァーギ著 いぶきけい訳
「夢幻の動物事典」ドゥニーズ・クロール=テルツァーギ著 いぶきけい訳
ヨーロッパでは、中世まで動物に関する知識の大半は、古代ギリシャのアリストテレスや、古代ローマの博物学者・大プリニウスの著作に基づいていた。それらの知識は、魔術書にも引用され、魔法使いのいかがわしい取引にも貢献したという。
そうした古い史料をもとに、怪しい薬の原料に用いられたり、魔法の片棒を担がされて悪魔払いや呪術などに関わることになった動物たちのエピソードを集めたグラフィック本。
魔界に棲(す)む生き物として恐れられたクモ。人間はその毒に脅威を感じるとともに、クモの巣が持つ不思議な効能を古代から称賛もしてきた。
1世紀のギリシャの医者であり物理・植物学者でもあったペダニウス・ディオスコリデスは、「傷が浅ければクモの巣を傷口に当てることで出血を塞ぎ、炎症を防ぐことができる」と記している。
人間と最も親しい動物でもあるイヌも、19世紀の書物「地獄の辞典」では、魔法使いの忠実な仲間になっている。
またギリシャ神話に記された地獄の神ハデスの忠犬として魔界の入り口を見張る頭が3つに竜の尾を持つ「ケルベロス」や、魔法の力を持つ植物「マンドラゴラ」を引き抜く儀式に重要な役割を果たしていたイヌなど、さまざまなトピックスやエピソードを紹介。
ほかにも悪の化身と見なされてきた牡ヤギ、その右足と心臓を眠っている女性の左胸に置けばあらゆる秘密を告白すると魔術書で処方されるミミズク、それが登った木の果実を食べた人は低温で死に至るといわれ魔法薬の調合に用いられた火トカゲなど、膨大な書籍を渉猟し、その挿絵などのさまざまな図版も併録。
何よりも小ぶりでありながら古書を思わせる凝った装丁で、久しぶりに本を所蔵する楽しみも思い出させてくれる一冊だ。
(グラフィック社 1980円)