「京に鬼の棲む里ありて」花房観音著
「京に鬼の棲む里ありて」花房観音著
かやは、比叡山の麓、八瀬の里で生まれ育った。古くから延暦寺の使役を担ってきた八瀬の村人たちは、自分たちを伝教大師に仕えた冥土の鬼の末裔だと信じている。さらに里の男たちが誇りにしているのは、足利尊氏と決裂した後醍醐天皇が比叡山に逃げる際にその輿(こし)を担いだことだ。以来、八瀬の男たちは比叡山に登る貴人たちの輿を担ぐ役目を仰せつかってきた。
かやの夫・千太は里長から、近いうちに輿を担ぐ役目を与えられるかもしれないと言われ喜びを隠せない。かやは、里に滞在することになったその貴人にゆかりのある者の世話役を担うよう命じられる。貴人の愛人と思われたが、数日後、里に現れたのは夜叉丸と名乗る美しい男だった。(「鬼の里」)
室町時代の都を舞台に男女の欲と生きざまを描く短編時代小説集。 (新潮社 649円)