「和本図譜」日本近世文学会編
「和本図譜」日本近世文学会編
蔦重の「耕書堂」の店頭には、どんな本が並べられていたのか。それがリアルに分かるのが本書だ。
日本古来の装丁によって作られた「和本」の魅力を多くの写真で視覚的に紹介してくれる。
「ジャケ買い」の楽しみは現代人だけのものではないようで、近世の娯楽本の表紙や袋(本を包むカバーのようなもの=写真)にも読者の目を引くよう趣向が凝らされていた。
そのひとつがエンボス加工によって立体的に文様を描く「型押」と、光の反射によって文様を浮き出させる「艶出」。
いずれも江戸時代に広く行われていた表紙加工技術で、どちらも文様を彫った板を用いた技法だが、仕上がりは全く異なる印象をもたらす。
読み物である草双紙や黄表紙は、ほぼすべて紙面に絵があり、絵の余白に文章が書き入れられている。その絵にも印刷過程でさまざまな技法が用いられた。
「薄墨」と呼ばれる技法は、黒でも色でもない薄墨を使った摺りは、雪や雨などの自然現象や、幽霊や妖怪などの異界の存在を描き出す。
そうした印刷の技術から、100年以上も繰り返し刷られたという占いの本など、当時のロングセラーの内容に至るまで。さまざまな視点で「和本」の世界を案内してくれる。
(文学通信 2090円)