阿部牧郎「金曜日の寝室」(1986年・徳間文庫から)

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【あらすじ】一流商社に勤める伊藤一郎は、交通ゼネストの前夜、赤坂のホテルに泊まる。そこで、酒場の美人ママと密会する社長を目撃、社長の秘密を知る。社内に社長の隠し子がいる!? 手がかりは、22~23歳で気立てのいい美人――。伊藤は、目指す女性に性エネルギーの念力を送り込むという特技を駆使し、“幻の社長令嬢”探しに乗り出す。阿部牧郎のオフィスラブ1作目。

「すばらしい体ね。若いわ。すごく若い。さわるだけでみちたりた気持になる」

 とささやいた。

 彼女は顔をあげて伊藤の男性をみつめ、吸いこまれるようにそれを口にふくんだ。

 伊藤一郎はベッドに身を起こし、足をのばして女の仕草をみまもっていた。女はひざをつき、背を丸くして横合から伊藤の下腹へ顔をふせている。いとおしげに手をそえて、伊藤の男性を口にふくみ、ゆっくりと顔を上下に動かす。ときおり舌と唇が音をたてる。たれさがった髪が彼女の横顔をかくし、男性をくわえた唇だけが、やや突きだされた感じで伊藤の目に映った。乳房が垂直に上を向き、大きくみえ、かすかに揺れつづける。

(中略)

「まだ終わっちゃいやよ。終わらせてやらないから。苦しめるだけで、終わらせてやらない」

 と、目を光らせて妖しく笑った。こちらの内心を一々読みとられるようで、伊藤はすこし口惜しくなった。若い伊藤を、この女は指導する気らしい。酒場などを経営していると、若い男をどうしてもみくびるくせがつくのかもしれない。

 また愛撫にかかった女のヒップを、伊藤はこちらに向かせたい衝動にかられた。ふてぶてしく豊満な、しかも美しいヒップを、なにかの手段で思いきり侮辱してやりたい気持になる。それをやるとほんとうに終わってしまうかもしれないが、女がこんど生意気なことをいったらもう止まらないだろう。

 また快楽がおそってきて、伊藤は呻き声をもらした。

「なによ、いくじなし、このぐらいのこと我慢なさいよ。男の子でしょ」

 指をつかいながら女があざけった。

「なにをこいつ。えらそうにしやがって」

 伊藤は飛び起き、女の腰をつかんで力まかせにこちらへひきよせた。女の腿のあいだをさぐる。ねっとりと熱い液が伊藤の掌へあふれて流れた。

 (構成・小石川ワタル)

▽あべ・まきお 1933年、京都府生まれ。京都大学文学部卒。87年、「それぞれの終楽章」で第98回直木賞受賞。それ以前から、会社勤めの経験を生かし、会社内で展開される男女の性愛関係を中心とした作品で人気を博す。官能小説で「オフィスラブ」という分野を切り開いた作家である。今年5月、85歳で没。

【連載】よみがえる昭和官能小説 エロスの世界

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