赤松光夫「尼僧の寝室」(1999年・桃園文庫から)
【あらすじ】交通事故で夫を亡くし、若くして未亡人になった春月尼は、思うところがあって、仏門に入り、名を変えたが、その体には、女盛りの血潮がたぎっていた。
春の宵、たまたま訪れた檀家で男と女のみだらな光景を目にしてしまう。それは春月尼の妖しい情感を呼びさまし、彼女の若い肉体を熱く燃え上がらせたのだった。
四十九日もすませていない未亡人の、思いがけない秘密の姿を、春月は息を殺して見つめていた。
最初は信じられず、夢を見ているようであった。
だが、背中を見せる長髪の青年は、麻衣子夫人のドレスの胸もとを開いて、白い乳房を押し出し、もみ始めている。
そればかりか、ドレスの裾から手を入れている。
しかもその動きにつれ、夫人の白い素足が、太腿もあらわに、妖しく動いている。
春月は、逃げ出そうとした。しかし、棒立ちになったまま、体が石のように動かない。
なおもほてる頬を、頭巾の上からしっかりと押さえ、祈るように瞼を閉じていた。
(略)
京介が床に坐り込み、下半身に舌を這わせ始めた。同時に一方の手で乳房をもみ、だらんとソファから白い太腿をあらわにして足を落としている麻衣子の股間に、指を差し入れている。指先は花芽をつむような形で動き、同時に周辺に、舌先を虫のように這わせている。
ジーンと、春月は、下半身に疼きを覚えた。それは自分にも子宮があることを思い出させる。春月は立っておれず、身震いするようにして、傍らの若芽を出したばかりのモミジの幹で、体を支えた。
夜風はまだ肌に冷めたい。
しかし、春月の二十八歳の女の肌は、桜の花同様に燃えていた。
京介はそんな姿勢で、しばらく未亡人の体を弄び、やがて自身もズボンのベルトをゆるめ、ズボンを下ろすと、黒々としたヘアの中から、赤黒い感じの屹立した肉茎を示し、麻衣子夫人に微笑みかけている。
体を起した麻衣子夫人が、いきなり、立ったままの京介の肉茎を、ためらうことなく赤いルージュの唇にくわえ、含んだ。
それは、今初めて関係する二人ではなく、すでに長く許しあった関係を思わせた。
(構成・小石川ワタル)
▽あかまつ・みつお 1931年、徳島県にある尊光寺の僧侶の四男として生まれる。京都大学文学部卒。60年から作家活動に入り、主に青春小説・ジュニア小説を書く。80年代以降、密教ミステリーで活躍。その後、「蜜の追跡者」「尼僧殺人巡礼」などの官能ミステリーサスペンスで人気を博す。現在、88歳。