富島健夫「官能の宴」(昭和61年・双葉文庫から)
【あらすじ】出張した折、河野宏は高校時代の友人・松崎と会う。松崎は、「今夜はおれの家に泊まれ」と言い、泊まることになる。松崎の家には松崎の妻・三重と人妻の初江がいた。その夜は4人で楽しむことに。その後、宏は妻の千鶴を説得し、松崎の紹介で、スワッピングパーティーに参加し、そこで出会った水谷夫妻と親しくなる。
「あなたもして」
途中で、初江はからだを廻転させた。口が宏を求めてきたのである。本格的な相互愛撫になった。
向こうを見ると、松崎と三重もそうしている。三重が松崎を含んでいるのが見えた。
ふいに、初江が宏から口をはずしてせがんできた。
「もうだめ、ちょうだい、ちょうだい」
宏が初江におおいかぶさってすぐ、松崎も三重におおいかぶさった。三重の顔がこちらを向いた。
「河野さん」
あえぎながらの声である。
「なんだい?」
「彼女、どう?」
「すばらしい」
「お願い、行かないで」
「……」
「彼女だけをよろこばせて、あなたは耐えて、あたしも欲しいの」
「おい、松崎」
「おお」
「いいのかい?」
「いいとも。この子はな、もう前からおまえを味わいたがっていたんだ」
そのあと、四人は話し合わなかった。たがいにときどき向こうを見ながらも、それぞれの動きに力を入れたのである。
最初に三重が声を上げはじめた。つづいて、初江がそれに挑発されたように乱れはじめた。
(中略)
三重はそれへ背を向けてこちらを向いた。乳頭が大きい。そのあたりの黒さは、初江よりはるかにいちじるしかった。
黒い三角地帯も見えた。
「よかった?」
「ええ、とっても」
「そろそろ離れて」
「まだ、いや」
三重のほうを向いたまま、初江は宏を抱きしめた。
「もうちょっとこのままでいたいの」
「欲張りね」
三重の目が光った。
ついさっきあれだけよろこんだのに、もう欲しがっている。そう思わせる目である。
「もうちょっとだけよ、まだつづいているのよ」
(構成・小石川ワタル)
▽とみしま・たけお 1931年、京城生まれ。早大在学中から丹羽文雄に師事し、53年、「喪家の狗」が芥川賞候補に。60年代は青春小説・ジュニア小説で活躍し、「おさな妻」(70年)が話題に。「初夜の海」(73年)を発表以降、作品は官能的になり、宗薫、宇能と共に“官能小説ご三家”と称された。98年、66歳で没。