<第12回>「あの頃は一生懸命だった。ただ懸命に芝居をしていた」
「あの頃と今とでは時代が違う。映画は娯楽の王様、映画会社は夢の工場でした。今と違って芸能界は遠い世界で、スターさんには銀幕でしか会えなかった」
そんな時代の本格的大作映画が「飢餓海峡」だったのである。本作における高倉健の存在感はやや希薄といっていい。しかし、彼にとっては、落ち着いた演技、考える演技ができた、またとない機会だったと思われる。この時代のことを振り返って、彼はこう話していた。
「あの頃は一生懸命だった。ただただ一生懸命に芝居をしていた。目立ちたいとも思ったし、共演の人を食ってやりたいとも考えました。少しでも目立つために銀歯を入れようとしたり、頭にハゲをつくろうとしたり……。跳びはねる芝居をやろうとしていたんですよ。ただ、そういう演技は誰でもできるんです。難しいことじゃないんだ。
役を受けるときでもギャラがいい、パーセンテージがいい、と条件のことばかり考えていました。まるでおなかをすかした子供みたいなもんでね。自分を奮い立たせて役に向かうためにそんなことばかり考えていた時期もあったんです」