益岡徹デビュー秘話 仲代達矢が開演30分前に“代役”指名
「稽古中、その方の役を一緒にやっていたのですから、できないとは言えません。それで開演を30分遅らせてもらい、準備を急ぎながら、台本を開いたんですけど、頭の中は真っ白。あまりのことに、緊張する余裕もありませんでした」
獅子の子落とし、であったが、獅子の仲代もいつもとは違う緊張感でいっぱいだったようだ。幕が上がれば、愛弟子だろうと助けることはできない。やがてブザーが鳴り、ふたりはまばゆい照明の中へと飛び出した。益岡がプロの第一歩を踏み出した瞬間だ。これがデビュー作となり、この日から3ステージ、最終公演まで代役を務め上げた。
「冒頭の15~20分しか登場しない、病気持ちの長老の役でしたけど、素人同然の僕をよく使っていただいたと思います。あの日があったから、あの経験があったから、今の僕があると思います」と益岡。
■両手に一升瓶ぶら下げてきはて「演技論」
「仲代さんは師匠であり、父親のような存在。厳しい稽古の後、両手に一升瓶をぶら下げてきて演技論を語りながら、飲ませていただきました。『お借りします』と一筆残し、2期上の役所広司さんと飲みにいった時や、稽古場に酒の臭いを残しながら入った時など、よく雷を落とされたことも覚えてます。仲代さんは本当に酒が強く、明け方まで一緒に飲んでいても、まったく残さない。朝ご飯をきちんと食べ、昼にトンカツを平らげたりするのですから、凄いんです」