橋口亮輔監督の原動力は故・淀川長治さんの「1時間ダメ出し」
淀川先生は開口一番「見たわよ」とおっしゃった。そして、「ファーストシーン、すごいと思った。これは溝口健二かと思った。でも、あとがダメ! なぜだかわかる? あんたには根性がない」とピシャリ。そこから1時間、ずっとダメ出しで、僕は「はい、はい」と聞くしかありませんでした。
ただ、先生は「見込みがある」と。「あなたは一度映画を選んだんだから、最後まで映画をやんなさい。盗みを働いてもいい、水を飲むことしかできない生活をしてもいい、あんたはやれるから」とおっしゃってくださったんです。「目先の映像のことなんかどうでもいいの。アンタは人間のはらわたをつかんで描く人なの!」とも。そのときは「はあ、はあ」と聞いているだけだったんですけど、先生とお会いして、僕は初めてプロになりたい、と思うようになりました。
7年前、「ぐるりのこと。」を撮った後、同業者から長年にわたって悪質な詐欺被害を受けていたことが判明。問い詰めると本人も盗みを認めたため、訴えようと弁護士に相談しました。
相談した5人の弁護士は見事に堕落しきった者でした。証拠もある。本人も自白している。にもかかわらず訴えることすらできない。「この国で犯罪被害に遭うと泣き寝入りしかないのか?」と精神的にもかなりのダメージを受けました。