橋口亮輔監督の原動力は故・淀川長治さんの「1時間ダメ出し」
このへんのエピソードは映画「恋人たち」で使ったんですけど、詐欺に遭った当時は、この先、何を信じて映画を作ればいいのかわからなくなってしまいました。
そんなとき、淀川先生の「一度映画を選んだんだから……」という言葉をふと思い出したんです。部屋でひとりで、声に出して言ってみたりもしました。何の自覚もなかった僕に言ってくださったその言葉に「あ~、オレ、やれるんだ」って励まされました。一生、自分を支えてくれる言葉、財産に巡り合えたと思っています。
淀川先生はバレエ、オペラ、歌舞伎を見なさい、三島由紀夫の小説「禁色」、歌舞伎の演目「桜姫東文章」を原作にした映画を撮りなさい、ともおっしゃった。先生のおっしゃったとおり、全部見て勉強しました。先生は対談の5年後に亡くなったので、遺言のように思える。「禁色」「桜姫東文章」の映画化はずっと頭にあり、いつかどちらかひとつでも撮りたいと思っています。
▽はしぐち・りょうすけ 62年、長崎県生まれ。大阪芸術大学映像学科中退後、24歳で上京。26歳のとき、「夕辺の秘密」でぴあフィルムフェスティバルアワードグランプリを受賞し、スカラシップを得て93年「二十才の微熱」でデビュー。以来監督作すべてが高く評価されている。