無名時代の励みに 寺島進の心を打った北野武28年前の言葉
その気負いのせいか、アドリブでやった演技のはずみでサッカーゲームの機械を壊したのね。そしたら壊れたことをうまく次のシーンの中で使ってくれたんですよ。「なんで壊すんだ!」じゃなく「そうきたか。じゃあ、こうしよう」、こんな感じで発想が柔軟なんです。あれには感心しました。
■声をかけてもらえずクサっていたら……
それともうひとつ心を打たれたのは、北野監督は端役の僕らにも気さくに話しかけてくれて偉ぶるところがないことです。今ももちろんですけど、その頃だって超ビッグネームですよ。それなのに「俺が赤胴鈴之助の格好(コスプレ)してロケ現場に行ったら、みんなドン引きしちゃってさあ」なーんて笑わせたりする。
それらを目の当たりにして一発で惚れ込みました。それは僕だけじゃなく、接したことがある人はだれもその独特の魅力に引き込まれちゃうんじゃないかなあ。
ところが、北野作品の第2作「3―4×10月」には声をかけてもらえず「あの夏――」もすでにクランクイン。少々クサっていたら、「『その男――』で白竜さんの手下だったアンチャンいるだろ、あれ呼んでこい」って急きょ声をかけてもらったわけです。名前を覚えてなかったのはご愛敬で、それは二の次、三の次。また共演できるってだけで、うれしかったですね。
そんな時に「売れなくてもずっと続けろよ」と励ましてもらえたのは、俺の人生は役者しかないと覚悟が決まった瞬間でした。