人気書評家が“診断” 乃木坂46メンバー初小説その実力は?
本書の“弱点”は…
その主人公、高校1年生の東ゆうは、アイドルになることを決意した少女だ。彼女には芸能界から見いだされるための秘策があった。東西南北の学校からそれぞれひとりの美少女を選び、周囲から絶対注目されるユニットをつくる。4人がまとまって行動することにより、メディアに目をつけさせるというのである。
物語はその仲間集めから始まる。南から選んだのは縦ロールの似合う究極のお嬢さま・華鳥蘭子で、彼女と友達になるとすぐ携帯電話に「南」と登録するのが本音丸出しでえげつない。西の工業高専からはロボットコンテストに熱中する工学少女・大河くるみ。ロボットに何の興味もないはずなのに、しれっと嘘をついてゆうは彼女に接近する。
しかしそうした行為を彼女はひどいと思わないのである。アイドルは絶対的な善だからだ。可愛い子はアイドルになればいいという信念、そのきっかけは自分がつくってあげる、という使命感がゆうを動かしていく。
トラペジウムとは不等辺四角形のことで、もうひとり「北」も参加して4人になった主人公たちの関係を指している。最初から無理のある人間関係だから、後半では当然のように危機が訪れる。
本書の弱点はそこで、作者は主人公を大事にしすぎた。ゆうは嘘をつき、他人の感情を無視して、アイドルになるという目的に従わせてきた。そのしっぺ返しを受けるべきなのだ。そうしないと、読者にはひどい人間に見えたままで終わるからである。
完全な作者の戦略ミスで、ゆうにどん底を味わわせないと話は盛り上がらないし、キャラクターの魅力も出ないのである。後半が尻すぼみなのも、これが原因だ。前半の嫌な感じが伏線回収できてないのが、もったいない。
とはいえ。笑える表現も随所にあり、独自性は感じた。この人が次を書いたら、私は読むだろう。
▽すぎえ・まつこい 1968年、東京都生まれ。慶大卒。文芸評論家、書評家、作家。各紙誌にミステリーやエンタメ等の書評を寄稿。自ら落語会を主催する演芸ファンで、神田松之丞との共著「絶滅危惧職、講談師を生きる」(新潮社)もある。