若山富三郎と清水圭で考えた 芸能人に対する“怒りの沸点”
先日、“古き良き時代”の映画俳優の話になり、僕は亡くなった若山富三郎さん(1992年、62歳没)の話をした。
若山さんの主演映画の製作が続いていた頃のことだ。新しい映画の撮影初日、控室に入っていたところへ、プロデューサーとスタッフが新人女優を連れてやってきて、「今回のお相手の女優さんです」と紹介した。その女優も「〇〇です。よろしくお願いします」と挨拶した。
すると若山さん、「ああ、ちょっとおいで」とその女優の手を取り、部屋を出ると撮影所の建物をそのまま出て、自分の車でどこかへ行ってしまった。これを見送ったプロデューサーとスタッフは「今日は撮影にならんな。撮休や、撮休とみんなに伝えてくれ」と、さも当然といった具合だったという。
この手の話は、昔はちょくちょくあったそうだが、現在ではセクハラ、パワハラだと大騒動になるだろう。その新人女優も若山さんのことを憎からず思っていたから付いていったのだろうが、それでも周囲で見た人間が大騒ぎしているはずだ。
若山さんと女優が撮影をスッポかして何をしていたかは分からない。この話にはオチがあって、それまでいわゆる大部屋女優だったその新人に、翌日から個室の控室が用意されていたという。ひょっとしたら、新人を引き上げてあげる若山さんなりの深謀遠慮だった可能性もある。