ダッチワイフを追いかけ…川で溺れて死にかけた小学生の僕
やばい! 瞬間的に残った右足だけを上げて粘りました。その姿はまさに王貞治の一本足打法そのものでした。そんな状態の僕の目の前をダッチワイフは流れていきました。悔しさと、このあと自分はどうなるんだろうという不安に襲われていると、川の流れが強くなりました。
「うわー!」。僕は川に流され、深い川底までのみ込まれました。あの時の映像は今でも覚えています。川の中から空の光が見え、自分の口から出た空気が上がっていく様子がスローで見えました。
「俺、死ぬのかな。母ちゃんに悪いな」と何か妙に落ち着いていると、「ケンくん、大丈夫か!?」と男の人の声が聞こえてきました。一瞬、川の動きで体が水面に上がると、友達のお兄ちゃんが立っているのが見えました。
そのお兄ちゃんは、県内でもトップクラスの水泳の達人で数々の大会で優勝していました。僕は思わず泣きながら「お兄ちゃん助けて!」と叫びました。するとお兄ちゃんは僕を見て、「ケンくん、こうするんだ!」と、陸の上でクロールの動きを見せて、水泳の指導を始めたのです。僕は人生で初めて人に突っ込みました。「飛び込まんのかい!」と。