<8>「今日は小津ですから」と初ライカで撮った笠智衆さん
「自分の写真に教えられる」というのが多いんだよ
本人はさ、手をちょっと上げて、くらいな感じで、オレもさ、こうやってお互いに手を上げてね。この笑顔と手の具合というのが、「よう!」っていうのと、「さよなら!」っていうのと両方写っている。「こんにちは」と「さようなら」が同時にね。自分の写真に生と死を一緒に撮ったというのを、気づかせてくれるんだよ、向こうが。それをオレは無意識で撮っている。撮るときに、これは「こんにちは」と「さようなら」を一緒に撮ろう、とは思わない。瞬間、その時の、相手との魂といっちゃ大げさだけど、行ったり来たりする気持ち。オレが人物を撮るときはさ、これがなくちゃダメなんだよね。あぁ、そうなんだって、自分の写真に教えられるというのが多いんだよ、オレの場合は。だからね、感性が先行しているんだよね(笑)。
ロンドンのバービカン(・アート・ギャラリー)で展覧会をやったときに(2005年、大回顧展を開催)、隣の映画館で、個展と一緒にオレの選んだ映画も上映したんだ。小津の『東京物語』をやって、舞台挨拶もしたんだけど、最初に、「私は北野武ではありません!」って言ったら、大爆笑でウケたんだよね~。ローアングルの小津安二郎は、きっとスケベなんだよっていう話もしたね(笑)。
(構成=内田真由美)