櫻井一葉氏「最も苦しいのは中小規模の映画の製作委員会」

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「五輪はOK、歌舞伎演劇もOK、だけど映画はダメ。そんな事を言うなら科学的根拠を示してもらわないと、私たちは芸術や文化として認められていないのかと差別感すら感じてしまいます」

 ため息交じりに語るのは、9都道府県への緊急事態宣言中の5月21日に公開した映画「お終活 熟春!人生、百年時代の過ごし方」(イオンエンターテイメント配給)の櫻井一葉プロデューサー(フレッシュハーツ代表取締役)だ。

 現在東京都では映画館の多くが休業中。とくに主要なシネコンはすべて休館しており、開業している小規模な劇場も、座席数の制限や時短営業を余儀なくされている。小池百合子東京都知事が、都独自の施策として「映画館、プラネタリウム」だけを、施設規模に応じた休業要請の対象としたためだ。

■都知事側から合理的な説明なし

 だが「映画館におけるクラスター発生のエビデンスはなく」(全国興行生活衛生同業組合連合会)、「なぜ映画館だけが?」と疑問の声は多い。日本映画製作者連盟も24日、「『映画館』再開の要望について」と題した声明文の中で、いまだ都知事側から合理的な説明が無い事を指摘し、政府の基本的対処方針に沿った扱いをするよう要望している。

「『お終活~』はもともと新宿ピカデリー1(座席数820)がメイン館でしたが、宣言を受けて休館が決まり、完成披露先行上映も中止に。結局、都内はより小規模な2館のみでの興行となりました。幸いターゲット層のシニア世代が早朝の時間帯から足を運んでくれたおかげで、都内は予想興収の2分の1の減少程度で済みました。しかし一般的には都市部の興収比率は35%を占めるとされており、業界が受けたダメージは甚大でしょう」(櫻井氏=以下同)

"稼ぎ頭"の大都市部の興収が壊滅的ならいっそ公開延期してはと思うが、新作の供給が止まれば、逆に営業を続ける地方が干上がってしまう。結局、損失覚悟で公開するケースも多い。

「大手と違い、私たちのような中小規模の会社に延期の決断は難しい。数カ月前から行う広告宣伝、いわゆるP&A費や、番宣活動してくれた出演者の協力が無に帰してしまうからです。ただでさえコロナ禍での映画製作は余計に経費がかかっている事情もあります」

コロナ対策で大幅に予算超過

 櫻井氏によれば「お終活~」の撮影は2020年3月。事実上、コロナ禍で影響を受けた最初の映画作品となった。現在は撮影前にPCR検査が行えるが当時はそうした体制もなく、感染症対策も手探り状態。予期せぬトラブルにも見舞われたという。

「眼鏡タイプのフェイスガードしか入手できず、俳優さんの顔に鼻あて跡がついてしまったり。それでも、ひとりも感染者を出すまいと、差し入れ禁止や検温チェックはもちろん、消毒の担当者をつけるなど必死でした。そうした手間暇に加え、病院ロケが不可能になりセットを組みなおすなど、製作費も膨らむ一方。別の作品の話ですが、撮影予定だったスタジオでクラスターが発生し、緊急事態宣言まで発令されたため、クランクインが延期になったケースも。製作費5000万円規模の映画でしたが、結局、待機期間のスタッフの人件費を含め1000万円近くの予算超過となってしまいました」

 東京都は、床面積千平方メートル以上の大規模な映画館には1日20万円の協力金を出すが、ミニシアターなどそれ以下の劇場には1日2万円の「支援金」のみで、批判の声が上がっている。だが、それ以上に厳しいこうした製作現場の実情が伝わっていないという。

■「6月以降も休業が続けば大変なことになる」

「最も苦しいのは支援の枠外にある中小規模の映画の製作委員会です。スタッフや役者のギャラをはじめ、多数の支払先へ充てる資金を回収しなくてはならないのに、映画館が閉まっているためお金が入ってこない。皆ギリギリの状況で、6月以降も休業が続けば大変なことになる」

「お終活~」は、7.1chの音声収録など映画館での鑑賞を前提に作られた映画として高く支持され、週末観たい映画ランキング1位(Yahoo映画)、初日満足度ランキング2位(Filmarks)に選ばれた。配信では味わえない、映画らしい映画ほど苦しい状況を前に、都知事はどう判断するのか。利権や政局を見据えたパフォーマンスはもう許されない。

(聞き手=映画批評家・前田有一)

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