<44>陽子が逝った後あまりにも寂しくて。写真に色を塗ったんだよ
陽子が逝った後はバルコニーで空ばっかり撮ってたね。空と、白いテーブルやワイングラス、病院から家に帰ってきたときに生けた花とか、彼女が残したものを撮ったりしてた。それが「空景/近景」なんだよ(1991年刊写真集)。妻亡き後、バルコニーでちゃんと写真、撮るぜ、撮ろうって言って、撮ろうと思って撮った写真だね。
「空景」のほうは空をモノクロで撮ったんだけどね、モノクロームで撮った写真を壁に並べてみたわけ、一周忌に。そうやって見ると、ちょっと泣けちゃうんだよね、あまりにも寂しくて。そんで写真に色を塗ったんだよね。そしたら、もっとこう寂しくなったね。
■色を塗ることによって再び生にっていう思いをね
モノクロームって死だからね。それを生に、色を塗ることによって再び生にっていう思いをね、一周忌で込めたんだよ。陽子が入院していた病院から容態が急変したと電話があって、駆けつけたときに、まだ蕾のこぶしの花を抱えていっただろ。そのこぶしの蕾が彼女が亡くなったときにパッと咲いた。陽子が花を撮るきっかけをオレにくれて、空を撮るきっかけも、彼女がくれたんだよ。
カラーインクは陽に当たると消えちゃう
「空景」は、モノクロの写真にカラーインクで色を塗ったんだ。カラーインクっつうのは、陽に当たると消えちゃうんだよ。で、この写真は売れたんだよね。でも、色が消えちゃったの(笑)。「明るいとこで見るな」っていうのに、明るいとこで見てたヤツは、「色がなくなった」「色が消えた」「詐欺だ」って言ってさ。「もーいっぺん塗れ」って言うのよ。明るいとこで見るなって言ったのに見たのが悪いだろって、そういうことがあったね。いまも写真に色を塗ることがあるけど、いまはリキテックス(アクリル絵具)だから大丈夫だよ。色は消えないからね(笑)。
(構成=内田真由美)