著者のコラム一覧
荒木経惟写真家

1940年、東京生まれ。千葉大工学部卒。電通を経て、72年にフリーの写真家となる。国内外で多数の個展を開催。2008年、オーストリア政府から最高位の「科学・芸術勲章」を叙勲。写真集・著作は550冊以上。近著に傘寿記念の書籍「荒木経惟、写真に生きる。荒木経惟、写真に生きる。 (撮影・野村佐紀子)

<45>陽子が最後に生けてった百合の花 枯れて腐ったテーブルにこびりついちゃってる

公開日: 更新日:

 陽子と出会って、結婚したのが1971年7月7日。結婚記念日が7月7日でね、陽子とは、別れても、毎年この日には必ず会おうと約束したんだよ。

 1990年の1月に陽子が逝ってしまって、それから、バルコニーで空ばっかり撮ってて、彼女が残したものを撮ったりしてた。それが『空景/近景』っていう写真集だね(1991年刊)。

 腐ったテーブルの上に花瓶がのってるでしょ。百合の花だけど、これが彼女が最後に生けてった百合の花なんだ。それが、死んでから一ヶ月、二ヶ月あとになって、腐ったテーブルにベタって頭をくっつけちゃう。枯れて腐ったテーブルにこびりついちゃってる。

「近景」の写真はね、三脚を立てて、ペンタックスの6×7で、ちゃんと照れずに撮ったんだよ。光と影の構図でね。普通は外すんだよ。そうしないと日常から離れて、“作品”になっちゃうじゃない。日常は作品にしちゃいけない。でも「近景」は、バルコニーでちゃんと写真、撮るぜって撮った写真だからね。きっと彼女への追悼かもしれないね。陽子が病院から帰ってきて1週間、家にいたときに生けた白百合、カサブランカ。彼女が逝った後もそのまま放っておいて、撮ったんだ。テーブルは最初に彼女が買って、持って来た白いテーブルなんだね。陽子のセンスなんだよねぇ。

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