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伊藤さとり映画パーソナリティー

映画コメンテーターとして映画舞台挨拶のMCやTVやラジオで映画紹介を始め、映画レビューを執筆。その他、TSUTAYA映画DJを25年にわたり務める。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当。レギュラーは「伊藤さとりと映画な仲間たち」俳優対談&監督対談番組(Youtube)他、東映チャンネル、ぴあ、スクリーン、シネマスクエア、otocotoなど。心理カウンセラーの資格から本を出版したり、心理テストをパンフレットや雑誌に掲載。映画賞審査員も。 →公式HP

「レミニセンス」ヒュー・ジャックマン主演、ノーラン弟が手掛ける新記憶ムービーの見どころ

公開日: 更新日:

 突然ですが、記憶というものは私たちに一体どのような影響を及ぼすのでしょうか。時に人はそれに囚われ思い悩み、また時にそれは夢として現れ、過去の恋人との再会まで果たさせてくれる記憶。それは哲学のみならず、映画にとっても一大テーマになりえます。これまでも、そんな記憶の魅力に魅せられた名匠たちが、いくつもの映画を製作してきました。

 例えば、世界三大映画祭で監督賞を受賞しているポール・トーマス・アンダーソン監督は、『ザ・マスター』(2012)で催眠療法を用いて過去の記憶からトラウマを解消するカリスマ宗教家を描きました。またヒットメーカーのクリストファー・ノーラン監督は、『インセプション』(2010)で他人の夢の中に入り込み、潜在意識から情報を得る物語を紡ぎ出しました。そのノーラン監督の弟であり、ノーラン作品の脚本も多数手がけてきたジョナサン・ノーランが、脚本を読んで気に入り製作した新たな“記憶”の物語が、今回ご紹介するリサ・ジョイ監督によるオリジナル映画『レミニセンス』です。

ヒッチコックからジブリまで 名作へのリスペクト

 主人公は、記憶を再生する機械を用いて、思い出の記憶に浸りたい顧客の願いを叶える男・ニック。彼は記憶潜入エージェントとしての一面も持ち、検察からの仕事も請け負っています。

 ある日、彼のもとに瀕死のギャングの記憶に潜入して欲しいという依頼が来るのですが、記憶から映し出された映像には、かつてニックの前から突如姿を消した愛する女性メイの姿が。彼は恋人の失踪がこの事件に何らかの関わりがあると考え、単独で調査を開始するのですが……。

 主人公ニックを演じるのは人気俳優ヒュー・ジャックマン、そしてニックの最愛の人メイを演じるのはレベッカ・ファーガソンです。『グレイテスト・ショーマン』(2017)では主人公と、彼が恋心を抱く魔性の歌姫を演じたこの2人。本作でもニックは、ひと目見てメイに魅せられ、彼女が歌う姿で完全に虜になります。

■役名メイは「となりのトトロ」から…?

 もしかするとリサ・ジョイ監督が『グレイテスト・ショーマン』を観た上で、この2人の別次元での恋物語とも捉えられるような遊び心もあってのキャスティングなのかもしれません。というのもリサ・ジョイ監督は本作に、所々、名作へのオマージュを入れており、そのほかにも愛のかたちについては黒澤明監督の『羅生門』(1950)やアルフレッド・ヒッチコック監督の『めまい』(1958)を参考にし、水面の上を走る電車のシーンでは、なんと監督本人が「大好きな宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』(2001)から」と話しているくらいだからです。

 ならば、メイという名前も、もしかすると『となりのトトロ』(1988)から名付けたのかもしれませんね。

“水”の中…そして過去からの解放を求めて

 もうひとつ、この映画の特出すべき点で忘れてはならないのが、視覚的なアプローチによる「記憶」への囚われというテーマです。冒頭、「過去は人に取り憑く」という象徴的なナレーションと共に、映し出されるのは海水に呑まれ始めている都市、地域によっては小型ボートで行き来する人々の姿。この世界での戦争の経験や、悲しい現実からの逃避行を求め、人々は過去の記憶に浸るため、ニックの店の扉を叩くわけです。

“水”というのは本作のひとつのキーワードで、記憶再現装置を起動するためクライアントが水に浸った状態で装置を頭に取り付けるなど、随所に水のモチーフが使われています。夢分析では潜在意識の象徴ともいわれる水。舞台となる水没しかけた都市というのも、多くの人間が過酷過ぎる現実世界に嫌気がさし、過去の記憶(思い出)に浸ってしまう状況を象徴しているのではと考察できます。

 それを裏付けるように、ニックは元軍人であり、彼を取り巻く人々も戦争で苦しみ、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えるクライアントやドラッグに手を染める者も描かれていきます。過去への囚われから解放されるにはどうすることが有効なのか?

 心に深い傷を抱えた人々を救う方法をリサ・ジョイ監督が映画的アプローチから処方したのが本作といえるのではないでしょうか。

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