「十月大歌舞伎」コロナ禍の制約を逆手に取った企画はいいが…
陰惨な話のあとは、華やかな舞踊劇「俄獅子」で、尾上松也、市川笑也、坂東新悟が舞う。明るい気分で劇場をあとにしてくださいというコンセプト。
第2部は松本白鸚の「時平の七笑」。白鸚はここ数年、これまでに演じていない役に挑んでいるが、これもそのひとつ。時平は片岡我當が当たり役としており、他の役者が演じるのは1982年以来。あえて演じるからにはと演出を変えている。
舞踊劇は尾上松緑と中村鷹之資の「太刀盗人」。第3部は菊五郎の「松竹梅湯島掛額」。前半は喜劇で、正月の国立劇場での菊五郎劇団の芝居のように、アドリブ的なギャグがふんだんで、笑わせるはずなのだが、客席は爆笑にはならない。「おとなしく見なければならない」という状況下では、舞台と客席とが、一つになりにくい。こういうご時世だから楽しいものをという意図は分かるが、観客が笑える気分というか状況にならないと、喜劇は空回りしてしまう。
後半は尾上右近が人形振りで八百屋お七を演じる。前半、流されるタイプの女性だったお七が、人形振りになると、一転して動きが激しく大きくなり、大胆な行動に出る。その落差が見もの。
最後は中村芝翫と片岡孝太郎の舞踊劇「六歌仙容彩」のなかの「喜撰」。2人とも今回が初役。やってみました、という感じだった。
(作家・中川右介)