歌手・白崎映美さん 活動休止から10年…伝説のバンド「上々颱風」一日限定復活にかける思い
価値観の大転換を引き起こした紅龍の一言
白崎さんのMCは上々颱風時代から酒田弁だ。
「東北コンプレックスが強くて、何とか田舎くささを消そうと思って東京弁を使ったりしていたんです。バンドも泥くさく思えて、最初の頃は嫌々やってたところがあります。でもある日、横浜・鶴見生まれの紅龍さんに『映美ちゃんには(東北という)根っこがあっていいよね、それが文化だもの』と言われまして。その言葉を聞いて目からウロコ。自分がカッコイイと思ってきたことがカッコ悪くて、カッコ悪いと思わされてきた方言などが本当はカッコイイんだという価値観の大逆転が自分の中で起こったんです。それからは上々颱風原理主義者といわれるくらい自分のバンドが大好きになりました(笑)」
さて、白崎さんは酒田市生まれ。実家は食堂だったが、彼女が中3の時の大火で全焼。両親を助けるため新聞配達をしながら高校を卒業し、デザイン専門学校に入るために上京した。卒業後はデザイン事務所に入ったが2年で退職し、小劇団に入るも半年で退団。情報誌で見たバンドメンバー募集に応募した。これが「上々颱風」の前身である「紅龍&ひまわりシスターズ」だった。
「社会派の紅龍さんが行くところは、公害や差別問題など、全国の市民運動の集会も多かったですね。大阪のあいりん地区でライブをやった時は、何度目かの暴動の直後で焼け焦げた車が道路に放置されてたりして。何千人ものおっちゃんたちの前で歌うのが怖かったんですけど、『ネエちゃん、はよ脱げや』とヤジを飛ばすおっちゃんも、私が歌い始めたら熱心に聴いてくれて。なんて、自由で人間くさいところだろうと、大好きになりました」
今回の感謝祭では、白崎さん率いる3つのバンドが共演する。
「タイトルの“MOKKEDANO”は“ありがとう”という酒田弁。これまで支えてくれたお客さんへの感謝と同時に、先の見えない暗い時代を音楽の力で吹き飛ばすようなコンサートにしたいですね」
(聞き手=演劇ジャーナリスト・山田勝仁)
◆「白崎映美還暦大感謝祭」は酒田市民会館希望ホール・大ホールで開催。