流山児★事務所「田園に死す」は天野天街マジック全開!寺山修司劇世界の到達点
背景に映画「田園に死す」の恐山の映像が重なり、暗闇の中で役者たちが擦るマッチの火が瞬間ゆらめく美しさ。故障し、12時5分で止まったままの柱時計を前にいつ果てるともなくループする母親(平野直美)と男(沖田乱)の会話。
家出しようとする少年シンジ(木暮拓矢)は新司(眞藤ヒロシ)、しんじ(五島三四郎)、そして中年の新次(大内厚雄)へと、寺山の分身が増殖していく。
さらに映画のヒロイン・化鳥(伊藤弘子)、舞台「身毒丸」の継母(竹本優希)といった登場人物たちが舞台を彩る。何重もの物語の複合とおびただしいイメージの連鎖。時折、「物語」の中に客席通路から闖入し中断させる男(流山児祥)は「演劇は日常と通底するのだ」という寺山演劇を体現する仕掛けだ。
1983年5月4日、12時5分の寺山の死に向けて、少年が家出する「大過去」と1972年の映画世界の「中過去」、そして2024年の現在が無限に重なり合い、青森県下北半島からラストシーンの下北沢ザ・スズナリへと経巡っていく天野版地獄編。怪人二十面相という「反権力」の象徴を南方・セレベス島で戦病死した寺山の父(寺十吾)のイメージと重ねたことで、今の日本のキナくささを指弾した。J・A・シーザーの曲が効果を上げた。3月24日まで、下北沢ザ・スズナリ。
★★★★