著者のコラム一覧
北島純映画評論家

映画評論家。社会構想大学院大学教授。東京大学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹を兼務。政治映画、北欧映画に詳しい。

映画芸術の頂点に立つクリストファー・ノーラン監督はなぜ「オッペンハイマー」を題材にしたのか

公開日: 更新日:

 確かに本作品は広島・長崎における被害を正面から描かず、被爆者の不在、オッペンハイマーの道徳的偽善、あるいは米政権の政治的欺瞞に批判の声もあがる。しかしこの映画ではカラー画と白黒画が使い分けられる。AEC聴聞会で想起されるオッペンハイマーの主観的回想(カラー)を主としながら、ストローズの商務長官承認を審議する上院公聴会に至る客観描写(白黒)が折り重なる。その2つのタイムラインが交錯する最終盤、再び登場するのが「焼けただれた少女」の白昼夢だ。少女役を演じたのが監督の長女フローラ・ノーランであると知れば、ノーラン自身の思いは伝わるだろう。

■オッペンハイマーの苦悩は「時間の交錯」を象徴

 初期の「メメント」(2000年)から今に至るまでノーランは一貫して「時間とは何か」を主題としてきた。「インセプション」(10年)では夢と記憶を、「インターステラー」(14年)では相対性理論を扱い、「TENET テネット」(20年)では遂に第3次世界大戦を防ぐために「時間が逆行」する世界を描いた。ノーラン映画で時間は相対的であり、当然のように前に進むとは限らない。線形(リニア)に進むフィルムで撮影され上映される映画の基本的特性を誰よりも考え抜くがゆえに、ノーランが提示する「時空間を巡る哲学的主題の深み」「プロットの重厚」「娯楽としてのスケールの破格」「音響と音楽の圧倒」は見る者を熱狂させ、他に類を見ない映画への没入体験をつくり上げる。興行的成功と優れた作家性を両立させるノーランは今や映画芸術の頂点に立つといっても過言ではない。

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  2. 2

    石橋貴明のセクハラに芸能界のドンが一喝の過去…フジも「みなさんのおかげです」“保毛尾田保毛男”で一緒に悪ノリ

  3. 3

    フジテレビ問題「有力な番組出演者」の石橋貴明が実名報道されて「U氏」は伏せたままの不条理

  4. 4

    三浦大知に続き「いきものがかり」もチケット売れないと"告白"…有名アーティストでも厳しい現状

  5. 5

    フジ火9「人事の人見」は大ブーメラン?地上波単独初主演Travis Japan松田元太の“黒歴史”になる恐れ

  1. 6

    清原果耶ついにスランプ脱出なるか? 坂口健太郎と“TBS火10”で再タッグ、「おかえりモネ」以来の共演に期待

  2. 7

    広末涼子が危険運転や看護師暴行に及んだ背景か…交通費5万円ケチった経済状況、鳥羽周作氏と破局説も

  3. 8

    広末涼子容疑者「きもちくしてくれて」不倫騒動から2年弱の逮捕劇…前夫が懸念していた“心が壊れるとき”

  4. 9

    芸能界を去った中居正広氏と同じく白髪姿の小沢一敬…女性タレントが明かした近況

  5. 10

    松嶋菜々子の“黒歴史”が石橋貴明セクハラ発覚で発掘される不憫…「完全にもらい事故」の二次被害

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  2. 2

    フジ火9「人事の人見」は大ブーメラン?地上波単独初主演Travis Japan松田元太の“黒歴史”になる恐れ

  3. 3

    PL学園で僕が直面した壮絶すぎる「鉄の掟」…部屋では常に正座で笑顔も禁止、身も心も休まらず

  4. 4

    石橋貴明のセクハラに芸能界のドンが一喝の過去…フジも「みなさんのおかげです」“保毛尾田保毛男”で一緒に悪ノリ

  5. 5

    三浦大知に続き「いきものがかり」もチケット売れないと"告白"…有名アーティストでも厳しい現状

  1. 6

    松嶋菜々子の“黒歴史”が石橋貴明セクハラ発覚で発掘される不憫…「完全にもらい事故」の二次被害

  2. 7

    伸び悩む巨人若手の尻に火をつける“劇薬”の効能…秋広優人は「停滞」、浅野翔吾は「元気なし」

  3. 8

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した

  4. 9

    フジテレビ問題「有力な番組出演者」の石橋貴明が実名報道されて「U氏」は伏せたままの不条理

  5. 10

    下半身醜聞の川﨑春花に新展開! 突然の復帰発表に《メジャー予選会出場への打算》と痛烈パンチ