東大地震研究所・平田直氏 「首都直下型の予知は不可能」
東日本大震災から5年が経過し、日本列島は平穏を取り戻したかのように見えるが、本当にそうか。地震予知の“権威”である東大地震研究所地震予知研究センター長の平田直氏は近著「首都直下地震」(岩波新書)で改めて警鐘を鳴らしている。仮に首都直下地震が起きた場合、1都3県で最悪約2万3000人の死者が出るといわれている。最新の発生可能性と対策は――。
■今も続く地殻変動
――東日本大震災から5年が過ぎ、地震は減っているように感じますが。
ゆっくりとした地殻変動は今も続いています。自然現象としては、まだ終わっていません。あの時は首都圏でも街の電気が消え、エレベーターも止まって、暖房も止まった。5年経って、当たり前のように日常が戻りましたが、忘れてはダメです。
――近著では「東日本大震災発生後、『ひとつ間違えれば、首都直下地震が起きていたかもしれない』と思った」と書いています。
関東では関東大震災というマグニチュード(M)8程度の地震が起きて以来、それほど大きな地震は起きていない。みな、油断しているというか、忘れてしまっている可能性がある。大きな地震が来ることを前提に暮らすことが大切です。
――「首都直下地震」とはどのようなものですか。
首都圏に大きな被害を及ぼす可能性のある地震です。そもそも、理学のどの教科書にも書いていない言葉で、防災のために行政が使っている。防災、減災の観点から、どういう地震か一般の方にも広く知ってもらうために「首都直下地震」と呼んでます。
――最も気になることですが、そもそも予知は可能なのでしょうか。
残念ながら、今の科学技術では予知できません。ただし、将来、予知できる可能性のある地震もあります。
――予知できる地震はどのようなものですか。
東海地震の予知はできる場合もあるが、できない場合もある。プレートにどういう力が加わっているかある程度予測できて、どういうメカニズムか分かっているものについては、正しくモニターして前兆を察知すれば予知できる可能性はある。ですが、まだ現状では「地震の起きる可能性が高くなった」とは言えても、ぴったり「何日に起きる」と言うことはできません。
――政府の地震調査委員会は今後、M7クラスの首都直下地震が「30年以内に70%」の確率で起きると指摘しています。
これは「統計的な理解」に基づいて発生を確率的に予測しているものです。南関東の広い範囲でM7クラスの地震は、明治から100年の間に5回起きています。過去100年に5回起きたということは、将来の100年でも5回くらい起きる可能性はあるということです。
――この数字の根拠は。
100年に5回ですから、100を5で割れば20です。しかし、地震は20年ごとに起きているのではなくて、発生は不規則。単純に100年に5回を、30年に換算すると、0.7回、70%となるわけです。
――30年となっているのは、どうしてですか。
人が生きているうちに1回くらいは――という意味です。決して30年後に起きるかもしれないというわけではなく、今日かもしれないし、明日かもしれない。
――2012年には「4年以内にM7地震70%」と予測して物議を醸しました。
当時、東北地方太平洋沖地震の影響を受けて、関東で地震が起きやすくなっていたのは、今でも事実だったと思っています。M7の地震は起きていませんが、現にM6を超える地震は起きているし、M5やM4の地震は非常にたくさん起きています。今はだんだん元の状態に戻っていますが、決して安心できるわけではありません。