東大地震研究所・平田直氏 「首都直下型の予知は不可能」
耐震基準のチェックと生き延びるための水確保
――これまで、たくさんの専門家が地震の予測をしてきました。
文化としてはいいと思っています。科学として正しくないことはいっぱいありますが、いろんな人が予測することによって、みんなが地震に備えてくれればいいと思います。
――ただ、不安をあおることによって、ミスリードされてしまう可能性もあります。
お医者さんは“エビデンス”に基づいて治療を行います。地震の“エビデンス”は、過去100年に5回、M7の地震が首都圏で起きている、ということ。これは堅い。ですが、「X日にM7の地震が来る」なんていうのは、科学ではありません。そこははっきりさせておく必要があります。
■日本海溝の海域に150カ所の観測点
――東日本大震災後、対策として何か進んだ点はありますか。
東北地方太平洋沖地震は海で起きましたから、海域に観測点を増やしました。日本海溝の海域に海底ケーブルで150カ所の観測点を作っています。
――それでどう変わったのでしょう。
東日本大震災は津波の被害が大きかった。海底ケーブルには津波計がついているので、津波がどういうふうに伝わって、あと何分後にどこに何メートルの津波が来るか、観測することができます。沿岸の人にリアルタイムで伝えることが可能になった。避難行動には役に立つと思います。
――「緊急地震速報」の精度も上がっているといいます。
これは地震が起きることを予知していないが、揺れることを予測しています。原理的に10分前に教えることはできませんが、10秒前くらいなら可能で、非常に役に立つ。速報が鳴ったら、まずやるべきことは身の安全を確保することです。
――首都直下地震でも「緊急地震速報」は有効ですか。
首都直下地震の場合、猶予時間は2、3秒しかない。カタカタと感じるのと、スマホが鳴るのはほぼ同時です。大切なことはカタカタと揺れ始めた時に、どうするかをあらかじめ考えておくこと。小学生は月に1度、防災訓練をやっていて、机の下にもぐったり、ヘルメットをかぶったり、クッションで頭を防いだりしています。その点、大人はやっていないから、危ないですよね。
――現実に地震が起きた時、どう対処すべきですか。
発生から最初の3分でいったん揺れは収まる。その次にどうするかが重要です。もし、自分の住んでいるのが、1981年の耐震基準の前につくられた古い家で、耐震補強していなかったら、すぐに倒れてくるかもしれません。その場合は一刻も早く屋外に避難しなければいけない。
――現在の耐震基準で建てた家ならどうでしょうか。
その場合、震度7でもすぐに倒壊することはほとんどないと思います。だから、慌てて外に出て、上からガラスが落ちてきて、けがをするほうが危ない。むしろ、屋内にとどまったほうがいいでしょう。自宅でも職場でも、今、自分のいるところがどういう場所なのか、あらかじめ知っておく必要があります。
――中央防災会議が先月まとめた応急対策では、仮に首都直下地震が起こった場合、救助が必要な人7万2000人、帰宅困難者800万人が発生すると想定しています。
東日本大震災時に起こった大渋滞を見れば分かりますが、首都圏でいったん大きな地震が起きると、救助が必要なところに行くのに時間がかかる。たとえ、14万人の救助部隊が投入されても、3日間は誰も助けてくれないと考えて、自ら準備をしておかないといけない。生き延びるために一番必要なのは水で、3日間分を確保しておくべきです。企業は一斉帰宅を抑制する必要がある。そのためには、社員がむやみに家に帰ることがないよう、社内に備蓄をしておかないといけません。
(聞き手=本紙・中村智昭)
▽ひらた・なおし 1954年、東京都生まれ。東大理学部地球物理学科卒。東大地震研究所教授。文科省首都直下地震防災・減災特別プロジェクトリーダーなどを歴任。今年4月からは東海地震判定会会長を務める。専門は観測地震学。